
総合スポーツメーカーのミズノが海外で存在感を高めている。ゴルフ、フットボール、ランニングシューズなど多岐にわたるカテゴリーで売り上げを大きく伸ばしている。【前編】では、ミズノの根幹を成す「商品力」を生かしたグローバル戦略を見てきたが、後編となる本稿では「商品力」を生み出す源泉を、ミズノのスポーツ用品の製造・管理を担うミズノ テクニクス株式会社(以下、ミズノ テクニクス)の本社養老工場で探る。
メジャーリーガーも愛用するミズノのバット
「常に一定の品質で提供してもらえて、毎日同じ感覚で使えたので、すごく助かりました」
メジャーリーグベースボール(MLB)のシカゴ・カブスに所属する鈴木誠也選手は、2025年12月に大阪・ミズノ本社で開催された「ブランドアンバサダーミーティング」で、ミズノ製のバットに絶大な信頼を寄せていることを明かした。
カブスに移籍後、米国メーカーのバットを使用していたが、重さなどにばらつきがあったという。「(バットは)繊細なのですごく気になってしまった」と話すように、アスリートにとって品質は重要な要素だ。当然、用具にこだわる選手は多い。
メジャー挑戦4年目となる2025シーズン、ミズノ製のバットに替えた鈴木選手は、日本人右打者として史上最高となる32本塁打を記録した。
「(バットは使いながら)育てるといった感覚があって、育てているバットが折れていきなり新品を使うのは不安なんですけど、ずっと使っていたんじゃないかというぐらいの感覚ですぐ使えるので、本当にすごく感謝しています」
今、ミズノ製のバットは米国で高く評価されている。MLBでは現地ブランドが多くのシェアを占めているものの、ミズノは圧倒的な品質を備えたプレミアムブランドとして認識されている。特に品質を重視する選手から厚く信頼されており、前述の鈴木選手はミズノ製を愛用して結果を残している。
派手な広告宣伝に頼るのではなく、実際の商品の機能的価値でアスリートの、ひいては消費者の信頼を得る。それがミズノの揺るぎない矜持だ。

ミズノの「商品力」を生み出しているのが、ミズノ テクニクスだ。特に創業から80年以上の歴史を誇る本社養老工場は、野球用木製バット、ゴルフクラブのほか、硬式野球ボールやバドミントンラケットなどを製造しており、アスリートを支える“聖地”として知られる。
工場の中は、「品質は工程で作り込む」を体現した作りとなっている。例えばゴルフクラブの製造ラインは、ベルトコンベアなどで完全に自動化されているわけではなく、かといって一人の職人が全ての工程作業を行うわけでもない。それぞれの工程に特化した機械を自社で開発・改造して使用しつつも、あくまでも職人が中心のレイアウト設計となっている点が特徴的だ。
バット工場に入ると、まず目に入るのがラックに積まれた数多くの木材だ。その中からそれぞれの選手に合ったものを選び出し、高速回転するろくろに固定して、手作りのカンナとノミを必要に応じて複数使い分けて削っていく。みるみるうちに繊細な曲線が現れ、芸術作品のように形作られる。

クラフトマンシップの継承
ミズノ テクニクスでは、卓越したクラフトマンシップを継承し、後継者を育成することを目的として、クラフトマン技能資格制度を設けている。
技術はもちろん、後進育成や人間性などさまざまな観点から、1年に一度検定を実施しており、マイスターを頂点としてクラフトマン1級・2級・3級の称号を付与している。この制度のもとで、職人たちは切磋琢磨し合いながら、さらにその技を磨いているのだ。
バットでいえば、久保田五十一(いそかず)氏が伝説的なマイスターとしてその名を知られている。日本人初の米国野球殿堂入りを果たしたイチロー氏などのバット作りを担当。2003年「現代の名工」(厚生労働省)に認定、2005年「黄綬褒章」を受章する腕前を持った。
2014年に久保田氏が引退した後、担当を引き継いだのが、その薫陶を受けてきた名和民夫クラフトマンである。名和氏も、現在は鈴木選手など多くのプロ選手の信望を集めている。

クラフトマンが考える「ものづくりで大切なこと」
名和氏がバット作りで大切にしていることに、「我を出さないこと」がある。たとえ良かれと思うことであっても、自分の意見は決して入れない。おごりになると考えているからだ。クラフトマンとして世間から評価されたり表彰されたりすれども、それはあくまでも選手が活躍した結果にすぎない。主体は選手であって、自らは黒子に徹するという。
ただ、これは口で言うほど簡単なことではないだろう。選手はそれぞれ違う感覚を持ち、またその感覚をどのように言語化するかも異なる。時に抽象的でもある選手の要望を具現化していく上で、これまでにクラフトマンとして培ってきた経験や、先人から継承した技術や知識など、数多くの引き出しを増やし続けてきたことが武器になっている。
「言語化されていない部分も含めて、頭の中で設計図を作り、その通りのものをバットに落とし込む。選手が求めているものをいかに忠実に形にしていくかが自分の役割だと考えています」と、名和氏は話す。
名和氏に話を聞いていて最も感銘を受けたのは、その向上心だ。これほどの“匠の技”を持っていながら、「僕が今持っているものが一番良いものだとは思っていません。良いものだと思えば後輩からも吸収させてもらっている」(名和氏)と話すように、常に学ぶ姿勢を崩さず、成長する意欲を持ち続けている。

オリジナルギアをクラフトマンに作ってもらえる
こうした自分だけのためのオリジナルギアをクラフトマンに作ってもらえるサービスは、実はプロ選手だけでなく一般の人々でも利用ができる。
バットであれば、初めに名和クラフトマンと養老工場で直接会って希望を聞いてもらう。工房には歴代のミズノ使用選手のバットが並んでおり、実際に振ったりして感触を確かめることもできるので、その中からベースとするバットを選ぶことも可能だ。目の前で名和氏がバットを削っていく。もちろんコンマ1ミリ単位での微調整もオーダーができる。
プロ選手のシーズンに向けたバット作りと同じ流れで最高品質のオリジナルバットを作ってもらうことができる格別な時間だ。

職人の技とテクノロジーを融合する取り組み
さらにミズノ テクニクスでは、職人の技能とテクノロジーを融合させる取組を推進している。
例えば、プロ選手は年間100~120本のバットを使用しており、その全てを職人の手作業で製造するわけではない。職人が削り出したバットはマスターとして保管され、実際に選手が使用するバットはNC(コンピュータ数値制御)マシンによって自動で削り出し、最終的な調整を職人が手作業で行っている。
職人技術とテクノロジーを独自の形で融合させることで、他にはまねできない高品質かつ高均一な商品づくりを実現させているのだ。

ええもんつくんなはれや――。ミズノ創業者のモノづくりに対する精神を表す、あまりにも有名な言葉だ。
では、「ええもん」とは何か? ミズノ テクニクス代表取締役(※)の寺下正記氏は、「会社としてはあえて明確には『これがええもん』と規定していない」と口にする。
例えばプロ選手と初心者では「ええもん」と感じるものは異なるだろう。グローバルでは国・地域によっても感じられる良さは変わってくるに違いない。「ええもん」を具体的に規定すると、そこに当てはまらない人を生み出してしまうかもしれない。
とはいえ寺下氏は「本質的なところで人々が求めているものは同じ」と話す。もっと速く走りたい、もっと遠くまで飛ばしたい、もっとうまくなりたい……。これらは老若男女を問わず、国境を越えた人間の本能ともいえる欲求だ。
だからこそミズノは、総合スポーツメーカーとして、世界中の全ての人にとっての「ええもん」を届け、スポーツの価値、スポーツの輪を広げていくことを使命に掲げている。
4年連続で過去最高売上を記録し、海外売上比率も40%を超えて過去5年で10ポイント以上も高めてきたミズノ。海外市場での「旋風」を巻き起こしている商品力の源泉は、職人たちが紡いできた技術を継承しつつ、テクノロジーとの融合で変化し続けることをいとわない、“ものづくりへの飽くなき向上心“にあるのだろう。
100年以上にわたって受け継がれてきたミズノのクラフトマンシップのDNAは、次の100年に向けて今もなお進化し続けている――。
(※肩書は取材当時。現在は本社ダイアモンドスポーツ・ラケットスポーツ事業部長 兼 事業企画販促部部長)

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