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Jリーグ×SPL始動。「世界基準で測られるJリーグ」へFC東京ジェネレーター会議が拓く、「社会価値」を投資言語に変える共創モデル—SROIで「いい話」を「説明できる成果」に。クラブは「社会実装」のハブへ—(Splat Inc. 横井良昭)【後編】

2026.07.09

FC東京は、2026年2月5日に「サステナビリティ戦略」を発表。クラブが掲げるソーシャルステートメント「わたしたちのくらしの未来につながるゴールを」の実現に向けて、環境への取組をクラブ経営の重要なテーマとして推進しています。本コラムでは、FC東京が培ってきた「ファンとの対話インフラ」である「ジェネレーター会議」の企画・戦略をサポートされたSplat Inc.の横井氏にその取組や意義を紹介いただきます。

【前編】に続き、【後編】では、「ジェネレーター会議」の具体的な中身について迫ります。ファン・サポーターとの対話をどのように行動につなげているのか。また、その社会的価値をどのように可視化し、国際展開へと繋げていくのかを考察します。

「ファンとの対話インフラ」を、サステナビリティの実装エンジンに

「ジェネレーター会議」での対話の様子©FC東京

FC東京では、これまでも「ジェネレーター会議」において、単なる取組報告ではなく、クラブがファンコミュニティを組織化し、対話と共創の場として機能させることで「行動につながる設計」に取り組んできた。FC東京の「ジェネレーター会議」は、クラブとファン・サポーターの対話を通して社会・地域課題について考えるプログラムである。日本において、クラブがファンを「主体」として巻き込み、まち(東京)の未来を一緒に考える会議体を継続運営している事例はまだ多くない。年代・職業・関心が多様なメンバーがつながり、議論し、アイデアを持ち寄ることでイノベーションが起こる—この仕組みそのものが、日本発の価値になり得る。
それを土台として、FC東京はNPNTを旗印に、サステナビリティを「啓発」ではなく「実装」として積み上げている。組織体制の整備、ロードマップの公開、学校やスタジアムでの実地施策、大学生インストラクター育成など、行動変容に必要な要素を具体化している。だが、気候アクションの最大の難所は、情報が伝わった先で「自分ごと化」し、行動まで到達させることだ。ここで効いてくるのが、クラブが持つ「コミュニティの力」である。

ジェネレーター会議の意義は、単発イベントの成功ではない。ジェネレーター会議は2023年より定期的に運営されてきた「ファンとの対話インフラ」であり、本年2月22日はその会議体を、クラブのサステナビリティを「社会実装」するためのエンジンとして本格活用し始めた点に転換点がある。

海外では、クラブが財団やコミュニティ部門を中核に、地域課題への関与を「制度化」している。例えば、リバプールFC(英/プレミアリーグ)はクラブのサステナビリティ戦略「The Red Way」を掲げ、環境・社会領域を含めた活動を体系化して発信している。こうした取組は、クラブが「誰と、どの領域で、どんな価値を生むか」を外部に説明する上で強い。一方で、制度が整っていても、気候アクションの核心である「生活者の行動変容」を継続的に起こすには、参加と合意形成をどう設計するかが鍵になる。

その点でFC東京が示唆的なのは、海外潮流を参照しつつも、「ファンを主体にする対話装置」をすでに持ち、運用の蓄積があることだ。海外でも、ボルシア・ドルトムント(独/ブンデスリーガ)の財団がファンクラブと連携し地域の社会・環境プロジェクトを支えるなど、ファンとの結びつきを生かす例はある。しかし多くの場合、財団やクラブのプログラムが中心で、ファンは「参加者」に留まりやすい。対してジェネレーター会議は、ファン自身が議論し、企画の発火点になり、現場運用や発信にも関わる「共創の場」として育ってきた。多様な生活者が継続的に交わることで、クラブ単独では発想しにくいアイデアや協力が生まれる。この「多様な生活者がつながる土台」があること自体が、国際的にも稀有であり、そのまま日本発の価値になり得る。

そして今回、その土台がサステナビリティの実装課題に向けて「使われ始めた」ことが重要だ。気候変動は、正論や啓発だけでは動かない。行動に移すためには、参加導線、ネーミング、現場体験、コミュニティ内での会話が必要になる。トッテナム・ホットスパーFC(英/プレミアリーグ)のようにクラブとして環境方針を掲げ、運営全体で取組を進める事例は増えているが、それでも「ファンが自ら動くムーブメント」にする設計は容易ではない。だからこそ、ジェネレーター会議という対話インフラを用い、ファンが「自分たちのまち(東京)」の視点で考え、クラブの施策に具体的に関わる構造を活用したとき、気候アクションは「クラブがやっていること」から「自分たちが起こすこと」へ転換する。

2月22日は、既存の会議体の3年間の蓄積を生かして、サステナビリティを「継続実装できる仕組み」とした日である。「制度化(財団・戦略)」と、「対話インフラ(ファン主体)」を掛け合わせられるか—その挑戦が、FC東京を次のフェーズへ押し上げるのではないか。

SROIで「社会価値」を成果の可視化へ—国際展開に効くポイント

FC東京コミュニティジェネレーターの石川直宏氏も「ジェネレーター会議」に参加©FC東京

ここから先、もう一段「国際展開」の文脈に接続する鍵になるのが、成果の可視化だ。SPLという国際枠組みで世界基準の評価軸に接続しつつ、SROI(社会的投資収益率)などの設計でアウトカムを捉え、年次で改善を回す。そうして初めて、クラブのサステナビリティは「いい取組」から「説明可能な投資対象」へ変わる。ジェネレーター会議が生むムーブメントと、成果の可視化—この両輪が揃ったとき、FC東京の挑戦は日本企業の国際競争力にも直結する「共創モデル」として語れるようになる。

会議では、従来のアウトプット(回数・参加人数)中心から、アウトカム(誰にどのような変化が生じたか)中心へ転換する方針が共有された。SROIは社会的価値を貨幣価値に換算し、総コストに対する社会的価値の比として示す考え方で、意思決定・資金調達・社内外浸透の質を高める。

スポーツビジネスの成長に重要なのは、ここが「国際展開」に直結する点だ。第一に、SPLのような国際枠組みに乗ることで、世界基準のスコアで語れる。第二に、SROIのような定量・定性の組み合わせで、価値を投資言語に翻訳できる。第三に、クラブが社会実装のハブになることで、企業は①信頼(ESG文脈の整合)②顧客接点(関係資本)③社員エンゲージメント(参加と誇り)④海外パートナー開拓(共通テーマで連携)を同時に取りにいける。スポーツは「広告枠」ではなく、価値共創のプラットフォームへ移行している。

次の論点:Purposeを共通言語に、海外にも通じるKPIをどう設計するか

今後の鍵は、Purpose(なぜやるのか)→戦略→実装→測定の一貫性である。海外では、取組の「善意」よりも、この一貫性が評価されやすい。クラブ×企業×地域×ファンの共創を単発施策で終わらせず、Purposeに紐づくKPIを設計し、年次で改善し続ける仕組みが必要になる。

JリーグがSPL参画で世界基準の評価軸に接続したいま、問われるのは理念ではなく実装である。FC東京は、NPNTという旗印と、ジェネレーター会議という対話装置、そしてSROIなどの可視化設計によって、サステナビリティを競争力に変える「日本発モデル」の可能性を示している。海外事例を学びながらも、日本ならではの多様な生活者を巻き込み、東京という都市で社会実装する—この挑戦は、スポーツ産業の国際展開における新しい指針になるだろう。

◇ Splat Inc.

Splat Inc.について

Splat Inc.

Splat Inc.は2023年3月に設立されたコミュニケーションデザインカンパニーであり、外資系戦略コミュニケーション企業で培った豊富な経験をもとに、スポーツが持つ本質的な価値を社会に広く伝え、企業活動や日本の成長へとつなげることを使命としています。競技の枠を超えたスポーツの可能性を可視化し、スポーツと企業、そして社会を結ぶ戦略的コミュニケーションをデザイン・実行することで、差別化された強固なブランド構築を支援しています

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