
2026年3月、筆者がCEOを務めるJA Networkは、ミズノ株式会社等との連携により日豪スポーツ✕ヘルス・イノベーション・エクスチェンジ(JASHIE*)を立ち上げ、この取組の一環として、初となるクイーンズランド訪問プログラム(JASHIE 2026)を開催した。3月に実施した本プログラムにおいて、日本とオーストラリアの関係者がブリスベン及びゴールドコーストに集い、スポーツ及びヘルス・イノベーション分野における日豪間の連携を深める機会となった。これらの分野は、2032年ブリスベン・オリンピック・パラリンピック競技大会(ブリスベン2032)に向けて、今後ますます重要性が高まることが見込まれている。本コラムでは、本プログラムの概要及び主な活動内容を紹介するとともに、参加を通じて得られた示唆や今後の日豪連携の可能性について報告する。
*JASHIEは、JA Network、ミズノ株式会社及び一般財団法人未来医療推進機構のパートナーシップにより発足した、⽇本とオーストラリアにおけるスポーツ及びヘルス・イノベーション分野の連携を促進する取組であり、官民の多様な関係者が参画する枠組みとして構築されている


1. 日豪の連携プラットフォームとしてのJASHIE
オーストラリアは、ブリスベン2032を契機として、政府や産業界、研究機関等を巻き込みながら、イノベーションと国際連携の動きが一層活発化する時期を迎えている。JASHIEはこうした官民の動きを見据え、両国のスポーツ・イノベーション・エコシステムを「つなぎ(Connect)」「成長させ(Grow)」「持続させる(Sustain)」ことを目指し、技術開発の加速やパートナーシップの促進、経済的・社会的な効果を創出するためのプラットフォームとして立ち上げられた。
主な対象分野は以下のとおりである。
・スポーツマネジメント、イベント、ファンエクスペリエンス分野
・健康、医療、アクティブライフスタイル分野
・ハイパフォーマンス、競技スポーツ、トレーニング分野
JASHIEでは、日本とオーストラリアのスポーツ産業による長期的かつ成果志向の連携を重視し、スタートアップや大企業、政府機関、研究機関など、多様な関係者が立場を超えて意見を交わし、国際的に活動していく上での課題や可能性について考える機会を提供している。
2. JASHIE 2026の概要
3月16日から20日にかけて実施したJASHIE 2026は、対話と交流を重視した内容を展開し、日本からは総合スポーツ用品メーカー、先端医療の産業化推進拠点、IT サービス企業、オープンイノベーション支援企業、データ分析・AI支援企業、ベンチャーキャピタル(VC)、コンサルティング企業、スタートアップ企業などを含めた15団体・18名が参加し、クイーンズランド州からは政府機関、大学・研究機関、スポーツ団体、スポーツテック団体、コンサルティング企業、スタートアップ企業などを含めた40を超える団体が参画した。各セッションを通じて延べ70名以上が参加し、多様な立場の関係者が一堂に会する機会となった。


参加者は、Trade and Investment Queensland*(TIQ:クイーンズランド州貿易投資公社)およびInvest Gold Coast**によるブリーフィング、先進的なイノベーション拠点やスポーツ関連施設の視察、テクノロジー紹介やスタートアップによるピッチ(事業提案)セッション、ネットワーキングイベントなどに参加した。関係者との交流やラウンドテーブル形式の意見交換も実施し、全16セッションを通じて、参加者はクイーンズランド州におけるスポーツ及びヘルス・イノベーション領域の事業環境や新技術及びサービスに関する実証の進め方、日本企業との協働が期待される領域などについて理解を深めるとともに、今後の関係構築につながり得る接点を持つ機会となった。

*TIQは、クイーンズランド州政府の機関であり、州内企業の海外展開支援や海外企業の投資誘致を担当し、世界18か国・地域に27の海外拠点を持ち、クイーンズランド州と世界をつなぐ役割を果たしている。
**Invest Gold Coastは、ゴールドコースト市(City of Gold Coast)が設立した経済開発・投資誘致機関であり、ゴールドコーストへの国内外からの投資を促進し、企業誘致や産業育成を通じて地域経済を発展させることを目的としている。
3. 国際展開に向けて得られた示唆
JASHIE 2026は、実施期間中の交流にとどまらず、その後の連携につながる関係構築の機会となった。特に、日本とオーストラリアの企業、研究機関などが、相互理解を深めながら率直に意見交換できる場を形成できたことは、今後の検討を進めていく上での重要な基盤となり得る。
ブリーフィング、視察、交流機会を組み合わせたプログラムを通じて、参加者は双方の市場の特徴や強み、優先分野、連携の進め方について理解を深めた。これにより、単なる紹介や表敬訪問にとどまらず、今後の協業や事業連携を見据えたより具体的な対話がなされた。特にスタートアップ企業にとっては、海外市場では技術そのものに加え、現地での実装の進め方やパートナーとの関係性について、具体的に検討する重要性を認識する機会となった。
また、クイーンズランド州の政府、産業界、学術界を横断するつながりが生まれたことで、同州のスポーツ及びヘルス・イノベーション分野における強みや、国際連携先としての可能性が改めて共有された。ブリスベン2032を見据える中で、同州のイノベーション・エコシステムへの理解を深める機会にもなった。知見共有に加え、今後の貿易や投資、共同研究、事業連携につながる中長期的な関係構築の土台としてJASHIEが機能することを期待している。
4. 海外展開を見据えた情報発信と関係構築の広がり
JASHIE 2026では、現地でのプログラム実施に加え、その意義や成果をより広く届けるため、日豪双方で情報発信を行った。プログラムパートナーや関係機関、参加企業・団体と連携しながら、主要なメッセージや取組内容を日本語・英語の両言語で発信したことにより、日豪双方の関係者に向けた訴求力を高めた。
発信にあたっては、パートナーシップの進展や現地での取組内容を、各関係機関の広報チャネルやデジタル媒体も活用しながら伝えた。特に日本語による発信は、日本国内の企業関係者、投資家、イノベーション関係者に情報を届ける上で重要な役割を果たした。一方、英語での発信は、クイーンズランド州のスポーツ及びヘルス・イノベーション分野における強みや特色を海外の関係者に向けて分かりやすく伝える機会となった。
さらに、デジタルプラットフォームやソーシャルメディアも活用し、現地での様子や最新情報を継続的に共有したことで、プログラム期間中だけでなく、その後の関心喚起にもつなげた。こうした複数のチャネルを組み合わせた発信により、今後の取組に向けた機運醸成に資する取組が行われた。こうした発信活動は、広報にとどまらず、日本のスポーツ産業に関係する企業・団体が海外への関心や反応を把握する機会にもなった。

(JASHIEのLinkedInページより引用)
5. 国際展開を目指す参加者が得た示唆
JASHIE 2026の参加者からは、日豪双方の関係者と直接つながることができた点を大きな価値として挙げる声が多く聞かれた。分野や立場を越えた交流を通じて、新たな連携の可能性を探る機会となった。
また、州政府の取組、研究機関や実証環境、スポーツ・ヘルス分野における産学官連携の状況などについて理解を深める機会となり、ブリスベン2032に関連する動きも含め、今後の展開を考える上で有益な知見が共有された。
スタートアップによるピッチセッションでは、海外の関係者に対して自社の強みや提案を伝える機会が設けられた。参加者にとっては、国際的な場での発信や対話を通じて、市場ごとの期待や視点の違いを実感したとの声が聞かれた。


6. 日本のスポーツ産業の国際展開につなげるための今後の展望
クイーンズランド州での取組を通じて得られた成果を踏まえ、JASHIEでは、今後のプログラムにおいて、より成果につながる形での日豪の連携促進を目指していく。一方で、短期間のプログラムでは十分に掘り下げ切れていない論点もあり、継続的な対話やフォローアップの重要性について改めて認識された。次回は、2026年11月に東京及び関西での実施を予定している。
今後のプログラムでは、参加者同士の接点を生み出すだけでなく、その接点を具体的な協業や事業展開へとつなげていくため、内容の更なる充実を図る予定である。具体的には、ビジネスマッチングの精度向上、投資家や企業との接点づくり、ピッチ機会の拡充、交流機会の設計の工夫、産業界の実務的知見を取り入れた内容の強化などを進めていく。
JASHIEでは、日豪連携を促進する実践的なプラットフォームとして、今後も参加者及び関係者に対し、国際連携や事業機会創出につながる価値を提供していきたい。
JASHIE 2026は、イノベーションを軸とする日本とオーストラリアの関係者が、共通の関心と将来像のもとでつながる機会となった。人やアイデア、機会を結びつけることを通じて、スポーツ及びヘルス・イノベーション分野における新たな連携の可能性が生まれている。
ブリスベン2032を見据えた動きが加速する中で、日本企業・団体にとってもオーストラリアでの新たなビジネス機会や参画の可能性が広がっている。こうした流れの中で、JASHIEは日豪間の協業や共創を促進する基盤として、両国の連携を後押しし続けることが期待される。

おわりに
JASHIEは、日本の企業の皆様にとっても、オーストラリアで発展が進むスポーツ及びヘルス・イノベーション分野と直接つながるとともに、日本の知見や技術を発信する貴重な機会となると考える。
今後も、日本お及びオーストラリアで開催予定のJASHIEプログラムを通じて、新たなパートナーシップの構築やビジネス機会の創出、日豪連携のさらなる発展につながれば幸いである。
JASHIE主催者一同は、スポーツ及びヘルス・イノベーション分野における日豪協働のさらなる推進に貢献していく。
執筆者に関する情報

クリスティーナ・メリノ・石塚
JA Network 創業者・CEO
【略歴】
クリスティーナ・メリノ・石塚
JA Network創設者兼CEO
オーストラリアと日本の間で文化・ビジネス・外交が交差する領域において20年以上にわたる実績を持つ、国際ビジネスのエキスパート。
企業・政府・非営利団体においてリーダーシップを発揮し、日豪間のビジネス連携を深めるための戦略的プログラムの立案・推進を担っている。また、ラグビーワールドカップ(2019年・2023年)、東京2020オリンピック、ワールドベースボールクラシック(2023年)、全豪オープンなど、世界的なスポーツイベントにおける公式ホスピタリティおよび旅行プログラムの運営において、商業部門およびカスタマーエクスペリエンスチームのマネジメントを務めた経験を有する。
