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トッテナム・ホットスパーとのパートナーシップで描く、旅行会社からの脱却【後編】(Beside Japan Ltd 林 鉄朗)

2026.08.27

世界最高峰のサッカーリーグ、英プレミアリーグの強豪トッテナム・ホットスパー(以下、スパーズ)とリージョナルパートナー契約を締結した株式会社エイチ・アイ・エス(以下、HIS)。前編では、「旅行代理店からの脱却」という経営課題を起点にスパーズとの提携に至った背景と、認知と信頼の獲得を掲げた契約初年度の取組を聞いた。

後編では引き続き、JSPINアドバイザーの林が、HISスポーツ事業グループの飯田 紘貴氏に、旅行会社からクラブの日本市場開拓を共に手がける事業パートナー(マーケティングパートナー)への進化の道筋、2040年を見据えた「グローバル進出支援事業」構想、そして「欧州=HIS」というブランド想起の実現に向けたビジョンを聞く。国際展開を目指す日本のスポーツ関係者・企業へのメッセージとともにお届けする。

【前編】はこちら
トッテナム・ホットスパーとのパートナーシップで描く、旅行会社からの脱却【前編】(Beside Japan Ltd 林 鉄朗)

目次

1 旅行会社から、マーケティングパートナーへ
2 海外パートナーと信頼を育む鍵 ―― ブランドフィット
3 2040年を見据えた「グローバル進出支援事業」
4 「欧州=HIS」へ ―― 国際展開を目指す企業へのメッセージ

第6回HIS海外旅行大感謝祭におけるHISスポーツのブースの様子

旅行会社から、マーケティングパートナーへ

―旅行会社にとどまらず、マーケティングパートナーとしてクラブを支援する構想を、当初からお持ちだったかと思います。半年を経て、スパーズ側の眼差しに変化はありましたか。

私たちはそうしたサポートをしたいと思っているものの、正直なところ、まだその真価を発揮しきれていない段階だと思います。

理由としては、現状はまだ手前の段階、つまり日本からロンドンに行っていただき、現地観戦を楽しんでもらうための施策を中心に手がけています。ただ、そのためのKPIとして設定したコミュニティ専用のSNSやイベントについては、着実に成果を上げており、常にレポートラインを組んで報告しています。その手応えは私たちもクラブも感じてきていると思い、方向性としては間違っていないと感じています。

というのも、スパーズから見たHISは、非常に多くの場を用意できる存在です。国内にある約150店舗を使った認知拡大と販促、自社イベントでの出展やウェブメディア、サッカーコミュニティSNSを使った発信など、リアルとデジタル両軸で連携できる領域がある。これはHISの大きな強みです。今はリージョナルパートナーという立ち位置ですが、これがグローバルに拡張した場合、世界各国にHISの支店があるため、スパーズが日本以外の国でマーケティング施策を練りたいとなったときにも、お力添えができると考えています。そうしたケイパビリティの広さを、これから話し合っていきたいと思っています。

―マーケティングパートナーとしての「成功」とは何でしょうか。

これは私個人の見方ですが、成功と感じるのは二つです。一つは、常設のサッカースクールができること。たとえば、レアル・マドリードやリバプールは日本国内に常設のサッカースクールを持っています。常設のサッカースクールは、単発のイベントと違い、子どもたちや親とクラブの接点が日常的に生まれ、次世代のファンを育て続ける拠点になります。同時に、クラブ側が日本市場に恒常的な投資をする判断をしたことの証にもなります。そこまでスパーズの日本でのプレゼンスを引き上げられたら、マーケティングパートナーとして一つの成功だと考えています。もう一つは、スパーズのユニフォームやグッズを売る店舗ができること。それだけのニーズがあると判断されたうえで出店いただくことになるので、スパーズが直接日本で商業機会をつくれること自体が、一つの成果だと考えています。

活用できるHISのアセットは、まず国内では店舗です。単に旅行を売るだけでなく、地域の方が集まれる場にしていく。コミュニティハブとして、今回は東京と大阪で展開しますが、東京・大阪だけでなく幅広い地域でセットアップしていけることはケイパビリティの一つです。グローバルでは、世界各地に広がる拠点の数が同様の強みになります。

海外パートナーと信頼を育む鍵 ―― ブランドフィット

―海外のパートナーと日本企業が信頼を築くために必要な要素を、半年の経験からアドバイスいただけますか。

まず最も大事だと感じているのは、前編でも触れたブランドフィットです。企業の色、クラブの色、リーグの色というものは、一度違うとなかなか擦り合うものではありません。だからこそ、自社と相手が持つ思想や哲学、パーパスとのすり合わせが非常に重要になります。

そのうえで、コンテンツというアセットに対して、自分たちの経営課題を掛け合わせ、自社の強みを出していく。それ自体が共創だと思っています。一番大事にすべきポイントは、まずその思想・哲学のすり合わせから始まる、ということです。

具体的なHow(手法)から検討される企業もあるかと思いますが、表に出てくる部分だけでなく、根っこにあるブランドフィットや思想・哲学までお互いに理解したうえでパートナーシップを築く。この見えない部分こそが、海外パートナーとの信頼構築において重要だと考えています。

2026年1月にJFAサッカー文化創造拠点『blue-ing!』で開催されたスペシャルトークショー。スパーズのサポーターズクラブとも連携し、約100名のプレミアリーグファンが参加した

2040年を見据えた「グローバル進出支援事業」

―3年から5年先を見据えたとき、このパートナーシップをどのような形に育てていきたいとお考えですか。

現在、スポーツ事業グループの中で2040年までのビジネスモデルを構想するプロジェクトを進めています。そのテーマの一つに掲げているのが「グローバル進出支援事業」です。国内の企業やクラブが海外に出ていく際に、その進出を支援する。単なる旅行代理店から、グローバル進出支援へと価値提供の幅を広げていく構想です。HISはグローバルに拠点を持っているため、どの地域でもお手伝いができる。これが大きな強みです。

もう一つは、今スパーズと進めている取組をロールモデルとして、海外の企業やクラブが日本に進出する際に、マーケティングパートナーとしての役割を果たすこと。スポーツをハブとした「進出支援事業」というビジネス領域に、大きな可能性を感じています。スパーズと会話する中で、クラブや他スポンサーの日本進出の際のサポートを私たちに求めてきてくれるだろうという確信もあります。

―構想と現状とのギャップを埋める鍵は、何になりそうですか。

まずは信頼を勝ち得て、一緒にビジネスをする。「同じ釜の飯を食べる」ことが非常に大事です。最初からグローバル進出支援を打ち出しても、なかなか前には進みません。海外であればなおさらです。

そこで私たちは、手前の戦略として、海外クラブの日本招聘試合や国際親善試合といった国際大会の運営(チーム・観客の輸送、宿泊、ホスピタリティなど)を重視しています。国際大会の運営を通じてタッチポイントを作った企業やクラブ、リーグに対して、HISのケイパビリティを理解いただいたうえで、グローバル進出を支援していく。国際大会の運営や、BtoC向けのツアー拡充を積み重ね、信頼を得た先にこそ、その事業がある。まだ距離はありますが、着手できている部分もあり、少しずつ進めていけると思っています。

左からスパーズのライアン・ノリス氏、HISの加治木宏執行役員
HISスポーツ事業グループ 飯田紘貴氏

「欧州=HIS」へ ―― 国際展開を目指す企業へのメッセージ

―「欧州=HIS」という目標に込めた、御社としての覚悟やこだわりを聞かせてください。

「欧州の最先端の体験、カルチャー、サステナビリティといえばHIS」というブランド想起を、2030年までに実現することを目指しています。旅行代理店として単に移動を売る、という立ち位置からは、脱却していくべき時期に入っていると思います。

そのうえで、私たちのパーパスである「『心躍る』を解き放つ」という目的を、いかに多くのステークホルダーに提供できるか。その方向に向かっていきたい。スポーツ領域においては、日本と世界のスポーツというコンテンツをプラットフォームに、双方向につなぐ唯一無二の企業としての確立を目指していきます。

旅行業の枠を超えるという点では、企業のBtoBシフトやサステナビリティ、地域創生といった観点から、人々の人生を豊かにするマーケティングパートナーへと、国際的な立ち位置で転換していく。同じ志を持つJSPIN読者の方々とも、企業間のつながりを多く図っていきたいと考えています。

―それを実現するために、鍵となる要素は何でしょうか。

先日発表した当社の中期経営計画で、初めてスポーツの内容が組み込まれました。スポーツコンテンツそのものが会社の中で認知され始めてきた表れであり、一社員として嬉しく思っています。スポーツは熱狂を生み出す力を持っている。この熱狂をどう価値としてビジネスに転換するかは、スポーツビジネスの最も面白い領域です。世界の呼び水となるものは、日本のスポーツにも海外のスポーツにもある。このコンテンツをどうビジネスにしていくか。ここがようやくHISの中でも認知されてきている、という手応えを感じています。

―国際展開を目指す日本企業へ、メッセージをお願いします。

単なるプロモーション観点でスポーツコンテンツを捉え、IPライツを使う費用対効果だけを考えると、難しく感じられるかもしれません。けれども、そこにお互いがどういう思想を持っているか。特に海外では、その思想の共有からして難しい部分があります。そこを丁寧にすり合わせ、相手の強み、自社の強みを経営課題と照らし合わせながら、一緒に価値を創出していく。そこが非常に面白みのある領域だと思っています。その部分を意識して考えると良いのではないか、と私は思います。

◇取材を終えて(林 鉄朗)

欧州クラブと日本企業のパートナーシップは数多く生まれてきたが、HISとスパーズの取組が示唆的なのは、①契約前に理念・価値観の一致を両者で丁寧にすり合わせたこと、②初年度のKPIを売上ではなく「コミュニティ」に置き、信頼構築を優先したこと、③日本から英国へのアウトバウンド(観戦ツアー)にとどまらず、欧州から日本へのインバウンドの視点を併せ持っていること、④単年のスポンサーシップにとどまらず、その先に事業共創パートナーとしての発展的な関係性を見据えていることの4点だ。

筆者は先日、ロンドンで開催された両者の会議に同席する機会を得たが、双方が同じテーブルで次の打ち手を建設的にディスカッションする親密な空気感が印象的だった。アクティベーションの推進にはHISロンドン支店も積極的に関与し、共創パートナーとしての関係に育っている様子がうかがえる。

日本企業やスポーツ団体が海外展開を検討する際、注目すべきは「どのクラブと組むか」だけではなく、「そのパートナーシップを通じて何を実現したいのか」を明確にすることである。HISはスパーズとのパートナーシップを、「旅行会社からの脱却」という経営課題を実現するための手段として位置付けている。実際に会議に同席して感じたのは、議論の中心がスポンサーの権利の活用ではなく、その先の事業創出や市場開拓に置かれていたことだ。海外展開を成功させるためには、「どのクラブと組むか」だけでなく、「そのパートナーシップを通じて自社のどの課題を解決するのか」を明確にすることが重要である。本事例は、海外スポーツ組織との連携をスポンサーシップではなく、事業成長や市場開拓につなげる戦略的な手段として活用できる可能性を示している。

(文=林 鉄朗)

◇林 鉄朗(はやし・てつろう)

ロンドンと東京を拠点とするスポーツビジネスコンサルタント。欧州と日本のハブとなり、スポーツを基軸としたイノベーション創出支援・マーケティング支援などを行う。JSPINアドバイザー。

JSPINは、スポーツ庁「スポーツ産業の国際展開促進事業」の一環として、日本のスポーツ産業のさらなる国際展開を支援するプラットフォームです。

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