
日本最大規模の社会貢献財団、公益財団法人日本財団(以下、日本財団)は、イングランド・プレミアリーグに所属するリバプールFCの慈善団体、リバプールFC財団(以下、LFC財団)と、2025年7月末にパートナーシップを締結。その後、同年度内にスポーツの力を活用したリーダーシップ教育プログラム「Leaders of Tomorrow」を開発し、現在も両者が連携して展開している。
国際的なパートナーシップはどのように始まり、何をもたらしているのか?日本財団で経営企画広報部 部長を務める梅村岳大氏と、LFC財団CEOのマット・パリッシュ氏に伺った。
子どもの貧困・教育課題で巡り合った、リバプールFC財団
日本財団は国内外の社会課題解決に取り組むNPOへの資金助成を行う民間団体で、「海洋」「国際」「子ども」「災害」「障害」「社会」の6分野で活動を行っている。
昨年度となる2024年度に資金助成したプロジェクト数は1225。助成金額は実に593億6060万円にのぼる。日本最大級の社会貢献財団が目指すのは、「みんなが、みんなを支える社会」だ。
なかでも「子どもの教育」は重要テーマのひとつ。現在日本では7人に1人の子どもが相対的貧困(※)にあり、そうした家庭では最低限の衣・食・住を満たすことができても、子どもの教育や将来に投資することは難しいという課題がある。
家庭の経済状況は進学率や雇用、生涯賃金に影響しやすく、貧困家庭に生まれた子どもが将来も貧困に陥る「負の連鎖」が起きかねない。こうした調査の過程で出会ったのが、LFC財団だった。
「相対的貧困はイギリスにも存在し、特にリバプールは他都市よりも貧困地域が広がっています。そんな中、LFC財団が『You’ll Never Walk Alone』(誰も取り残さない)という精神で、サッカークラブという存在を超えて地域のために活動していることを知りました」(梅村氏)

LFC財団が取り組んでいたのが、サッカーを活用した教育プログラムなどのチャリティープログラム。昨年イギリスで145,000人を超える人々に、就労支援やメンタルヘルスサポート、学力向上プログラムの提供など「学びと成長の機会」を提供していた。
さらには国外にも目を向けてアフリカにも展開、アジアでの可能性も模索していたところだった。この地域的な重なりも、重要な要素だったと梅村氏は言う。
「LFC財団と組めば、日本国内だけでなく、私たちが展開するアジアでも力を借りられるのではないかというのが最初のきっかけでした。リバプールFCが持っている世界中のファン、仲間たちに私たちも加わることで、一緒に活動を広げていけるのではないかと感じました」(梅村氏)
事実、日本財団はこれまで日本で得た知見やネットワークを海外にも広げる取組を行ってきた。ミャンマーやカンボジアなどで教育機会の提供や学校建設の支援を行い、特に発展途上国で活動をひろげている。そうした国々にもファンを持つのが、リバプールFCだった。
LFC財団にとって日本財団は「最高のローカルパートナー」
LFC財団にとってもこれからアジアでの活動をひろげる中、日本財団という強力なパートナーと巡り合った形だ。
2002年に設立後、現在は「2030年までに10ヶ国に展開」(マット・パリッシュCEO)という目標を掲げるLFC財団だが、その背景にはアジアで2億5000万人いるというファンの存在がある。
なかでも日本は、現在のクラブを取り巻く状況から考えると自然な流れでもあった。講談社や日本航空(JAL)といった企業がパートナーとしてクラブを支え、サッカー男子日本代表キャプテンの遠藤航選手がトップチームに所属、同じく女子日本代表の長野風花選手、清水梨紗選手が女子チームにも所属する。
昨年はプレシーズンツアーを日本でも行い、国内のファンベースも広がりを見せている。サッカークラブとして日本市場の開拓を試みる欧州クラブは多いが、チャリティー財団として取組を展開しているクラブは他になく、大きな可能性を秘めていた。
当時を振り返って、パリッシュCEOは、日本という異国の地で活動をひろげることについて、次のように語っている。
「新たな市場を全て理解しているという姿勢で活動を始めるのは間違っている。本国で行ってきたことをそのまま日本に持ち込んでも上手くいくとは限りません。どのようにここで“機能させられるか”を考える中で、日本財団のようなローカルパートナーと巡り会えたことは幸運でした!」(パリッシュ氏)
パートナーシップを実際の活動に落とし込む
パートナーシップを結んだ昨年7月を皮切りに、両者は活動を本格化。
発表当日に重なる7月30日には、リバプールFCが20年ぶりに来日し、横浜F・マリノスと対戦した「明治安田Jリーグワールドチャレンジ2025 presented by 日本財団」で日本財団がチャリティーパートナーを務め、子どもたち3000名を無料招待、来場者全員にウォーターボトルを贈呈するなどした。
その後、2025年9月にはスポーツの力を活用したリーダーシップ教育プログラム「Leaders of Tomorrow」の提供を正式に発表。リバプールFCのスクール(インターナショナルアカデミー)がある川崎でローンチイベントを開催した。
イベントには6歳から12歳の小学生約60名が招かれ、サッカーの実技と教育セッションを組み合わせたプログラムを体験。クリエイティビティを発揮してオリジナルのエンブレムをデザインしたり、チームで身体を動かしたりするなど、サッカーを通してリーダーシップを育み、自信をつけられる、そんな1日になった。

今後は取組を加速させていき、2026年夏までに日本国内でも6〜7地域に展開、8000人から9000人の子どもたちへのプログラム提供を計画しているという。「大学などの教育機関とも提携し、効果などを数値化していくことも検討している」と、パリッシュ氏は述べた。
教育格差・体験格差の是正に取り組んできた日本財団と、サッカーを通じた教育や社会貢献活動を世界各国で展開してきたリバプールFC財団。お互いが、「子どもたちを誰一人取り残さない」という価値観を共有し、長期的な関係性を目指すからこそのパートナーシップとなっている。
英国政府も協力。国際パートナーシップに新たな展開
パートナーシップ発表から約半年が経過した2026年1月、両財団の姿は再び川崎市にあった。上述のリーダーシップ教育プログラム「Leaders of Tomorrow」が、イギリス政府が展開する官民連携プログラム「MUSUBIイニシアチブ」に採択されることとなり、リバプールFCインターナショナルアカデミー川崎でその発表が行われたからだ。
MUSUBIイニシアチブは、2025年大阪・関西万博で発表された日英の官民連携パートナーシップだ。「結び(musubi)」の精神のもと、政府から市民社会まで幅広い領域をつなぎ、教育・文化・スポーツ・女性のエンパワーメントなどを通じて次世代の日英リーダー育成を目指している。リバプールFCインターナショナルアカデミーは、そのスポーツ領域の主要パートナーとして参画している。
調印式には、英国大使のジュリア・ロングボトム氏、そして川崎市の福田紀彦市長も出席。スポーツと教育の力で、次世代の可能性を広げる取組に大きな期待を寄せた。
「スポーツには、個々の成長を力強く後押しする大きな可能性があります。自信や創造性、チームワーク、そして仲間やライバルとの絆など、さまざまな力を育むことができます。リバプールFC財団は、こうしたスポーツの力を最大限に生かし、子どもたちのリーダーシップや社会的スキルの向上に取り組んでいます。イギリスではすでに大きな成果を上げており、日本財団と連携することで、今後日本全国へと取組を広げていくことを期待しています」(ロングボトム氏)
日本財団とLFC財団の取組に、英国政府という更なる強力なパートナーが加わった形だ。
「英国政府が推進しているMUSUBIイニシアチブに採択いただいたということは、日英交流を促進する公益的な取組だと認めていただいたということ。これから様々な場所に出ていく時に、非常に心強く思います」(梅村氏)

日本財団にとっては、社会課題解決への取組を日本だけでなくアジア、そして世界へと広げていくには一組織だけだとどうしても限界が生じてくる。支援をしたいと願っても、届かない子どもたちが出てくるかもしれない。
しかし、リバプールFC財団や英国政府といったパートナーや後援者がいれば、より多くの可能性が広がってくるはずだ。『You’ll Never Walk Alone』――国際的なパートナーシップで、日本財団はこれから多くの仲間と歩みを進めていく。

◇JSPIN事務局
JSPIN事務局のメンバーが、日本のスポーツ産業のさらなる国際展開を支援する活動等をご紹介します。
