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名古屋グランパスのASローマとの提携「世界で闘えるクラブ」を目指して(名古屋グランパス 谷藤宰)

2023.03.20

2022年11月、Jリーグの名古屋グランパスでは、イタリア・セリエAに所属するASローマとの戦略的パートナーシップを締結した。Jクラブでは幾つかのクラブが海外チームとの提携を行なっているが、その内容は様々だ。本稿では、名古屋グランパスが何を目指し、提携に当たってどのような活動を行ってきたか、そして今後どのような方向を目指しているのかをお伝えする。

海外クラブと提携する前に・・・

サッカークラブのグローバル化、また海外クラブとの提携は、決してマストで取り組むことではない。クラブが、市区町村単位、都道府県単位、国単位、世界単位、どこを基準にするかはクラブそれぞれだ。そのため、クラブがグローバル化を推進するかは、クラブとしてのありたい姿とビジョンに大きく左右される。

グランパスのありたい姿とビジョンは2017年から変わっていない。ありたい姿とビジョンをベースに、3年毎に中期計画(以下、中計)を立案し、短期の道標を作っている。中計は、チーム含めてクラブ一丸で検討。スタッフ・社員が100名にも満たない小さなクラブだが、少ない人数ながらもクラブ全員で進む方向を合わせる意味でも、中計を策定することは非常に重要なプロセスだ。

実際に、今回ASローマとの提携の話が届いてから提携合意まで2か月程度で進んだのも、グランパスのありたい姿、ビジョン、中計でクラブの方向性が定まっていたからだと考えている。

グローバル化・海外提携を進める前に、クラブとしての方向性を持つべく、①:ありたい姿、②:ビジョン、③:結果指標、④:結果指標を実現するための手段と具体的な姿、の4つを明確にすることが重要だ。

グランパスの①ありたい姿は、「世界で闘えるクラブ」になることである。グランパスというクラブが、世界から注目される、個が強くなり存在感がある、欧州・南米・世界のトップクラスのクラブと公式試合で対等に渡り合い、試合に勝利する。現状、グランパスが、ありたい姿を実現するためには、まだまだ幅広い面で成長していかないといけない。但し、欧州5大リーグの中には売上100億円程度のクラブが、売上1,000億円前後のクラブと試合をして勝利している。こういった勝利がグランパスのゴールではないが、世界に挑むチャレンジャーとして大事な最初の一歩だと考えている。

また、クラブの②ビジョンとして、「強く、観て楽しいサッカー」を展開し、皆さまに応援いただける「町いちばんのクラブ」になることを掲げている。前者の「強く、観て楽しいサッカー」では、③結果指標として、タイトルを獲得すること、ACL(AFCチャンピオンズリーグ)に毎年出場することを目標としておいており、強くて魅力あるチームであることはクラブとして最も重視している。

また、④結果指標を実現するための手段と具体的な姿、もクラブとして幾つか言語化しており、例えば、「グランパスが欧州選手からもキャリアの選択肢になること」、「アカデミー選手の海外武者修行経験の整備」などがある。後者の「町いちばんのクラブ」においては、一人ひとり、一つひとつの町にしっかりと向き合うことで、その先に愛知・名古屋の誇りとなり、最終的に世界からも事業面でも注目されるクラブになりたいと考えている。

①:ありたい姿、②:ビジョン、③:結果指標、④:結果指標を実現するための手段と具体的な姿、を策定することが、クラブのグローバル化の方向性を見失わないためにも重要だと考えている。

ASローマとの提携で大切にしたこと

サッカークラブのグローバル化へのアプローチは多岐にわたる。事実、Jリーグクラブは様々な形でグローバル化に向けたアプローチをしており、選手獲得を活かして当該国のマーケットにアプローチしているケース、パートナー企業と一緒に海外展開しているケース、などクラブそれぞれだ。

そうした中で、クラブ間の提携もグローバル化に向けたアプローチの手段の一つに過ぎない。また、提携においては、国・クラブの選定、提携内容、提携期間、投資対効果、そして何より双方の想いや考えが合致するのか、等の様々な評価軸があり、提携を判断することは容易ではない。

グランパスは、2022年9月頃にASローマより提携に向けたご提案を頂いた。最初に双方のクラブ紹介をしつつ、その後は複数回にわたって会議を実施。双方が意見を出し合いながら短期・中長期での提携内容を整理した。会議を複数回行うプロセスを経ることで、お互いの想い・考えを理解し合うようにした。

欧州クラブとの提携は日本のクラブの得る物の方が大きい。但し、欧州クラブがグローバル化を推進する上で、クラブが日本における認知度を高めることや、日本代表がW杯で快挙を成し遂げた中で、日本の移籍マーケットの生の情報は、欧州クラブにとっても興味深いものかもしれない。ASローマとはこうした会話もできたから提携に至った。提携である以上、両者の未来を創るものにするというマインドをもって進めたい。

海外クラブとの提携は、日程調整や言語など、非常に手間がかかる作業である。そういった背景もあり、仲介業者を挟むことも多い。また、欧州のクラブだと、海外の渉外担当を専門にする人材がいるが、国内クラブでは他メイン業務と並行して担当するのが実態である。但し、クラブ間提携は、手間でありながらも、何度も議論を重ね、お互いを“深く”理解しあって関係性を構築することが、短期的な取組に終わらず、中長期的な発展に繋がると考えている。

今回、グランパスとASローマでは、提携合意後の発信方法もあわせて協議した。シンプルに文面でリリースする方法はあるものの、動画を制作することにした。提携開始時点から、片方のクラブだけではなく、双方のクラブが労力をかけて作業をすることも、中長期的な関係性を構築する上で非常に大切なプロセスだと考えている。

ASローマとの提携

今回のASローマとの提携に当たっては、以下4つの項目それぞれにおいて短期・中長期で様々な取組を行う方針である。

  • トップチームにおける連携
  • アカデミー選手の育成における連携
  • 事業運営における連携
  • 社会活動における連携

短期の取組として、提携前に実施することが決まっていた2022年11月のASローマとの親善試合にチームが来日したタイミングの2日間を活かして、練習指導や意見交換を行った。

来日初日には、ASローマのトップチームのコーチ達に協力いただき、ASローマのトップチームの練習内容をグランパスアカデミーのU18~U15の選手たちに指導していただいた。加えて、イタリア代表DF・スピナツォーラ選手にも協力いただき、グランパスのアカデミー選手たちとの質疑応答の時間をご用意いただいた。

グランパスでは、「トップ・代表・世界で躍動する地元選手の輩出」を目指している中で、アカデミーの選手たちに世界の経験を肌で感じる機会を設けることは重要であり、継続して取り組みたい。

ASローマのトップチームコーチによるグランパスアカデミーの指導。写真提供=名古屋グランパス

2日目は、ASローマのピントGM、モウリーニョ監督より、監督の日々の業務内容、強化部の組織体制や各組織の役割、クラブとして拘りなどを対談形式で議論した。予算規模が異なるため、真似することはできない。ただ、グランパスが世界で闘えるクラブになるために、将来クラブが強化すべきことを学ぶことができた。他にも、対面機会を活かし、トップチームの試合分析官同士による分析方法の共有、トップチームの練習視察、スクールなどでの事業運営における話し合い等を行った。

今回の滞在期間の取組の一部は、瞬間的な取組に過ぎないかもしれない。ただ。小さいこと・出来ることから始めて成功体験を重ねつつ、徐々に大きなことにトライしていくことが、提携を中長期的に進める上でも大切だと考えている。

今後のグローバル化に向けた展開

ASローマではグローバル化を強化している中、海外渉外担当の人材を配置すると共に、人材も多国籍化するなど、クラブ相応の組織・人材も整備している。ASローマのグローバルでのありたい姿とグランパスのありたい姿は異なるため、体制を真似ることは最適解ではないが、グローバル化を推進する上での体制は重要な論点だと考えている。

2023年3月にはASローマを訪問。ASローマ対ナポリ プリマヴェーラ(ユース)の試合視察も行った。
写真提供=名古屋グランパス

また、ASローマとの提携において2023年シーズンでは、中長期目線の取組に着手する方針だ。但し、取組の中には、芽が出ない取組や効果を即座に出すことが難しい取組もでてくると考えている。そうした中で、グランパスとして大切にしたいのが、新しい取組に積極的にチャレンジすることである。

推進を決めた取組をもとにPDCAを回しつつ、継続する取組においては、P(Plan)をS(Standard)に置き換えて、SDCAを回すことでより良い取組に昇華させていく。これを繰り返すことで、ASローマとは長期目線に立って理想のクラブ間提携の姿を探していきたい。

◇谷藤 宰(たにふじ・つかさ)

株式会社名古屋グランパスエイト 事業開発部長 兼経営サポート副部長

早稲田大学創造理工学部卒業。米・ミシガン大学理工大学院にてIndustrial & Operations Engineeringで修士を取得し、2014年に外資系コンサルティングファームに入社。同社にて、大手企業のビジョン策定、中計策定、海外展開戦略などに従事。2020年に名古屋グランパスに入社し、新規事業立案、経営企画業務に携わる。


※所属・肩書等は2023年2月の執筆当時のものです。

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