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日本初のプロラグビークラブ、静岡ブルーレヴズの挑戦。海外パートナーシップの先に描く未来(静岡ブルーレヴズ 正本豊)

2023.03.24

写真提供=静岡ブルーレヴズ

ラグビー国内リーグ「ジャパンラグビー リーグワン」ディビジョン1に所属する静岡ブルーレヴズ(以下、ブルーレヴズ)は、これまでに2つの海外クラブとのパートナーシップを締結してきた。それぞれフランス、ニュージーランドとラグビー強豪国でありながら、両クラブは地方都市を本拠地とするなどブルーレヴズとも似た環境を持つ。海外クラブとの提携について、ブルーレヴズの事例をご紹介していく。

2つの海外パートナーシップ

ブルーレヴズは、静岡県全域をホストエリアとして活動するラグビーチームである。

ヤマハ発動機ジュビロを前身として、新リーグ「ジャパンラグビー リーグワン」に向けて2021年にヤマハ発動機株式会社の100%子会社「静岡ブルーレヴズ株式会社」として独立分社化。事業会社となり、「日本ラグビー界初のプロクラブ」となった。

もともとブルーレヴズは、ヤマハ発動機ジュビロ時代から海外クラブとの取り組みに積極的であり、長年にわたり独自の関係を築いてきた。しかし、2020年の新型コロナウイルスの感染拡大の影響を受け、海外クラブとの取り組みをストップせざるを得なかったのもまた事実だ。

その間にブルーレヴズではグローバル戦略を見直し、ポストコロナを見据えて準備を進めてきた。そしてついに2022年10月、新型コロナの水際対策が大幅に緩和されたことを受け、私はフランスとニュージーランドに向かうことになった。今につながる海外パートナーシップはここから始まったと言える。

ブルーレヴズが現在パートナーシップを結ぶクラブは2つある。ひとつはスタッド・トゥールーザン(以下、トゥールーズ)、もうひとつはベイ・オブ・プレンティ ラグビーユニオン(以下、BOP)だ。

トゥールーズは、その名の通りフランスの人口第4位の都市トゥールーズを本拠地に、1907年創設と100年以上の歴史を持つクラブ。仏1部リーグ「TOP14」に所属し、国内優勝21回、欧州チャンピオンズカップ優勝5回と、両大会で最多優勝を誇る。年間事業予算は約60億円とも言われており、興行面でもTOP14を代表するクラブになっている。

もう一方のBOPは、ニュージーランドの北島にあるベイ・オブ・プレンティ地方で、男子・女子の各トップチームの強化をはじめ、アンダー世代の育成、ラグビー普及や地域貢献など、地域の全てのラグビー活動を統括する“ユニオン”という形態で活動している。男子トップチームの「Steamers」は、ニュージーランド州代表選手権の1部リーグ(Premiership)に所属し、直近の2022年シーズンはベスト4の成績を収めている。

2019年から交流を続けてきたトゥールーズ

実は、トゥールーズとの交流は2019年にさかのぼる。2019年はラグビーワールドカップ日本大会開催の年で、当時すでに2023年のフランス開催も決まっていたことから、日仏のクラブが相互に協力するのは意義ある取組みであるという共通認識があった。

2019年7月にはトゥールーズのアカデミー(下部組織)から2名の選手を2ヶ月間レヴズに受け入れ、一方でレヴズの主力選手である日野剛志選手がトゥールーズへ短期加入し、TOP14にも出場した。11月にはチーム初となる2週間のフランス遠征を実施し、その遠征中にトゥールーズとパートナーシップを締結。締結日にトゥールーズとの国際親善試合も開催した。

2019年の初のフランス、トゥールーズへの遠征。写真提供=静岡ブルーレヴズ

ただしその後、さらなるパートナーシップの発展を目指していたところ、新型コロナの感染拡大が起こったのは前述の通り。フランス国内リーグは中止となり、海外渡航も不可能に。パートナーシップの発展は頓挫してしまった。

トップミーティングでパートナーシップを再締結

潮目が変わったのは2022年。10月に渡航規制が緩和されると、11月上旬には山谷(静岡ブルーレヴズ㈱ 代表取締役社長)と私で渡仏し、トゥールーズのディディエ・ラクロワ会長とのトップミーティングを実現することができた。それにより、トゥールーズとのパートナーシップを再締結することができた。

トップミーティングにはトゥールーズの幹部陣も集まった。ミーティングの議題は事前に担当者と打ち合わせて準備できていたが、ラクロワ会長がどのような発言をするか緊張感があったことを覚えている。

ミーティングでは、我々から、日本ラグビー界の変化、ブルーレヴズを設立した経緯、トゥールーズとの今後の取り組み案を丁寧に説明した。説明を聞き終えたラクロワ会長からは、2019年からのパートナーシップを振り返りつつ、これから発展させていきたいという意向を話してもらうことができた。

ミーティングで特に印象的だったのは、「ビジネス面でどう連携してシナジーを創出できるかが重要なポイントだ」と語られたことである。会長をはじめ、幹部陣も揃ってレヴズの今後の可能性を感じてくれており、また日本ラグビーと日本経済全体を大きなマーケットと捉えてもいた。

ブルーレヴズはプロクラブとして収益を上げていかなければならない。そのためには、強化と事業の両軸で進めることが必須であることを再認識した。それは、ブルーレヴズにとって新たな価値を創出できるチャンスそのものである。

パートナーシップをもとにした今後の具体的な取組みとして考えられる一つは、国際親善試合の開催だ。トゥールーズの日本への遠征が実現すれば、日本ラグビー界に大きなインパクトを与えることができる。世界トップクラブの試合を日本で観戦できる機会はそう多くない。今年のラグビーワールドカップでトゥールーズから多くの代表選手が選出されれば、フランス代表とトゥールーズの注目度はさらに増すだろう。

国際親善試合にあわせた、子どもたちやコーチ対象のクリニックの開催、両クラブのスポンサー同士のビジネス機会創出、アンダーカテゴリー同士の交流、トゥールーズが位置するフランス南西部のオクシタニ州と静岡県の自治体間の国際交流など、可能性は大きく広がる。トゥールーズにとっても日本でのブランディングの機会になるだろう。

トゥールーズは地域に愛されているクラブである。フランス第4とは言え人口は約49万人と、日本に置き換えれば決して大きな都市ではない。しかし、1万9000人収容のホームスタジアムは毎試合チケットが完売する。代表選手が不在でも集客数は変わらない。

ファンはどんな試合でもクラブを応援しているという気持ちであり、選手の成長を見守っているようであった。まさにブルーレヴズがプロクラブとして目指すべき一つの理想形がそこにはある。

長年の信頼が結んだBOPとのパートナーシップ

BOPとレヴズは長年の歴史がある。2015年には遠征と国際親善試合も行った。写真提供=静岡ブルーレヴズ

ブルーレヴズの2つ目の提携先はBOPだ。こちらもヤマハ発動機ジュビロ時代より、BOPへの遠征や国際親善試合、選手の留学、BOPに所属していた多くのコーチングスタッフや選手もヤマハで共に戦ってきたという歴史がある。例えばBOPでヘッドコーチを務めたケビン・シューラ―氏は、1996年に選手としてヤマハ発動機に加入し、その後監督やアドバイザーを歴任した人物だ。

トゥールーズと同じように、コロナ禍でしばらくの期間は交流することができなかったが、2022年10月、私はリクルート担当と一緒にニュージーランドへ渡りBOPを訪問した。マイク・ロジャースCEOと今後の方向性を確認するためだ。そこで私はアフターコロナを見据えた具体的な取組みとともに、これまで築き上げてきた信頼関係のさらなる発展のため、パートナーシップの締結を提案した。

ロジャースCEOからは、「ブルーレヴズとはお互いの信頼関係で長年やってきた。日本のクラブとパートナーを組むならブルーレヴズしかない。パートナーシップを締結し、協力しながらお互いの価値を高められると良い」と回答をもらうことができた。

パートナーシップのポイント

BOPとのパートナーシップのポイントは大きく2つある。

1つ目は、シーズンのスケジュール。男子トップチーム「Steamers」はニュージーランド州代表選手権(NPC)に参戦しており、NPCは通常8月〜10月に開催される。その期間、世界的には国代表同士の国際試合があるため、NPCの各チームは、代表選手を除くプロ選手を中心に、クラブレベルでポテンシャルのある若手選手が加わり、構成される。

選手にとってNPCでの活躍は次のキャリアへのチャレンジであり、選手はハングリーでモチベーションも高い。一方、日本では8月〜10月はプレシーズンで、ブルーレヴズとしても海外留学に選手を送り出しやすいのだ。

2つ目はBOPが地域のラグビー全てを統括していること。ニュージーランドでは全国を地方ブロックに分け、各地方のラグビーユニオンと呼ばれる組織がNPCに参戦するトップチームの強化をはじめ、アンダーカテゴリーの育成、地域へのラグビー普及や地域貢献などの活動を担っている。

その一つの地域がベイ・オブ・プレンティ地方なのである。BOPが地域で、普及、育成、強化をどう戦略を立てて取り組んでいるか、地域に根差したプロクラブを目指すブルーレヴズにとって、BOPから学ぶべきことは多い。

また、ベイ・オブ・プレンティ地方のロケーションも魅力的である。ベイ・オブ・プレンティ地方はニュージーランド最大の都市であるオークランドから車で約3時間。飛行機だと1時間もかからないような立地になっている。

自然環境に恵まれて、気候も温暖で天候も安定している。人口もベイ・オブ・プレンティ地方全体で約30万人で、一番大きい都市タウランガの人口でも約10万人。ブルーレヴズの拠点である静岡と非常に似た環境で共通する点が多い。

静岡から世界を魅了できるクラブへ

ブルーレヴズ、トゥールーズ、BOPは、国も文化も組織体制(クラブ、ユニオン)も異なるが、地域との密接な関係づくりや事業化という点で共通している。大都市ではなく地方であることで参考にできることも多い。

ブルーレヴズは、クラブのビジョンを「静岡から世界を魅了する、日本一のプロフェッショナルラグビークラブをつくる」と掲げている。

トゥールーズ、BOPとのパートナーシップ締結により、ブルーレヴズのグローバルでの事業展開の基盤は整った。コロナの終息が見えてきた今、今年9月に開催されるラグビーワールドカップ2023フランス大会も追い風となり、今こそグローバル事業を一気にカタチにするチャンスだ。

リーグワンのディビジョン1所属12クラブのうち、ブルーレヴズは唯一地方(静岡)に拠点を置く。地方にあるクラブが事業化することは不利な環境であると思われるかもしれないが、世界を見ればトゥールーズをはじめ、その地域に根ざし、核となっているクラブがある。

ブルーレヴズはこの静岡という地で、地域の人から愛され、事業化を実現することで「地方の可能性」を証明したいと考えている。ブルーレヴズがビジョンに掲げる、「世界を魅了できるクラブ」となるために、2つのパートナーシップが果たす役割は大きい。

◇正本 豊(まさもと・ゆたか)

静岡ブルーレヴズ株式会社 海外事業担当

国内空調メーカーに新卒で入社後、2017年5月ヤマハ発動機ジュビロ(当時)のクラブスタッフに転職。外国人選手のサポートやチームマネージャーを経験する。BOPへの選手留学の支援や2019年フランス遠征のコーディネート業務全般も担当。2019年のラグビーワールドカップ日本大会では、静岡県エコパスタジアムでの開催4試合でアシスタントマッチマネージャーも務めた。2021年6月静岡ブルーレヴズ株式会社設立と同時に転籍し、現職。海外事業の他、静岡県内の各自治体と連携した地域貢献活動や産学連携事業も担当。

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