パリ五輪への最後の出場枠をかけたバレーボール国際大会「バレーボールネーションズ(VNL)2024」の日本ラウンドが、2024年6月4日(火)から16日(日)の約2週間に渡って、福岡県北九州市で開催された。大規模な国際スポーツ大会は、国際交流を実現し、多くの人々に感動を与え、さらには地域経済の発展を促進する等、大きな意義がある一方で、イベントの開催が環境に及ぼす負の影響も指摘されていた。今回は、大会の主催者である国際バレーボール連盟/バレーボールワールド(以下FIVB/VW)と、日本のストラテジックパートナーである株式会社CB、そして開催地の自治体・福岡県がパートナーシップを組んで、SDGsやワンヘルスという理念の具体化を実現しつつ、福岡県、北九州市に36億円を超える経済波及効果をもたらした「買取大吉 バレーボールネーションズリーグ2024 福岡大会」(以下VNL2024福岡大会)について紹介する。
オリンピック出場権をかけたバレーボール大会
最初に、成功裏に終わったVNL2024福岡大会について、開催の背景や特徴から説明する。
1. 世界的に人気の高いバレーボール
バレーボールは、世界でも最も競技人口の多いスポーツの一つであり(推計約5億人)、日本で1年に1回以上バレーボールを行う人は約290万人とも言われている(2017年、公益財団法人日本生産性本部「レジャー白書2018」)。テレビでの人気も高く、テレビ観戦するのが好きなスポーツとして、日本では男女とも上位にランクされている。
2. バレーボールネーションズリーグ(VNL)とは
バレーボールネーションズリーグは、オリンピック、世界バレーと並ぶ世界三大大会であり、国際バレーボール連盟(FIVB)によって2018年に新設された国際大会。世界のトップチーム、男女各16チームが、世界を転戦し、予選ラウンドで勝ち点の多い上位8チームがファイナルラウンドに進出し、トーナメント戦で優勝チームを決定する。今夏に開催されたパリオリンピックの出場権は、昨年2023年中に男女各12枠のうち既に7枠が決まっており、本大会前に男子日本代表は出場権を既に獲得していた。
残り5枠は、VNL2024予選ラウンド終了時点の世界ランキングによって決定するため、残りのチームにとっては、パリ五輪への出場権をかけた最後のチャンスとなり、世界中が注目する大会となった。そして、ご存じのとおり女子日本代表は、大会ポスターのキャッチコピー「福岡からパリへ!」の言葉どおり、本大会で活躍を果たし、見事にパリ行きの切符を手にした。
3. 大規模国際スポーツ大会とSDGs
今回取り上げる大規模国際スポーツ大会について、SDGsを立ち上げた当時の国際連合パン・ギムン事務総長は、「メガスポーツイベントは計画策定やビジョンを通じ、社会開発や経済成長、教育の機会、さらには環境保護を前進させることができます。平和と人権を含め、国連の価値観や目的を推進するための基盤にもなります。メガスポーツイベントには、新たに採択された『持続可能な開発目標(SDGs)』の実現に貢献できる可能性と、その義務があります」と述べている。このように、大規模国際スポーツ大会は、平和と人権等、国際社会に大きな価値を持ち、開催地における経済効果など、それ自体にSDGsを促進する力がある。
一方で、大きなスポーツ大会は、大規模施工によるCO2の排出、大会関係者が宿泊するホテルのレストランにおける過剰な食材の仕入れや、選手、スタッフのお弁当の食べ残しなどの、いわゆる「フードロス」が多く発生する。また、多くの観客が観戦に訪れるため、そこで発生するゴミも無視できない量になる。このように、イベント開催が環境にもたらす負の影響が大きな問題となっていた。
VNL2024福岡大会の注目すべきSDGs
VNL2024福岡大会は、FIVB/VW+日本のストラテジックパートナーである株式会社CB、そして、地方自治体である福岡県が一体となって開催した初めての大会となった。商業価値を超え、これを持続可能とするための新しいビジネスモデルの構築を実現し、地域と一体となって、環境負荷軽減と子どもたちの未来を最優先に考えた、社会に貢献する大会へと昇華させることができたと言える。
1. 開催地決定の決め手は「ワンヘルス」
2024年1月31日、福岡県庁で行われた、合同記者会見の中で、FIVB事務総長のファビオ・アゼベド氏は、VNL2024日本ラウンドの開催地を福岡県に選んだ重要な決め手は、県が人と動物の健康と環境の健全性を一体的に捉えて守ろうとする「ワンヘルス(One Health)」を推進していることであったと述べている。環境問題に積極的に取り組んできた自治体と、FIVB/VWとがパートナーシップを組んで大会を開催したことが、今大会の特筆すべき点であると言える。
また、FIVB/VWおよび株式会社CBは、商業主義に偏らず地方自治体主導の下、環境負荷の小さい大会を目指すため、日本の地方都市での開催に強くこだわった。今回、実現した福岡県とのパートナーシップは革新的なことであり、日本で国際バレーボール大会を開催するための新しいモデルとなるだろう。これによって、世界の一流選手が、全国各地のファンの方々と触れ合うことができ、ひいてはバレーボールファンの増加を促進し、地域の活性化をも図ることができると考えている。
2. 国際競技連盟FIVB/VWと福岡県の強力なパートナーシップによるSDGsの推進
VNL2024福岡大会は、スタート時点からSDGsを重視しており、様々な課題を解決するため、FIVB/VW+ストラテジックパートナーの株式会社CBと福岡県とのパートナーシップ、そして両者の理念の具現化を担う大会組織委員会によって、入念な準備が進められていった。
3. サステナブルな大会をめざした取組
環境負荷やフードロスなど、大規模国際スポーツ大会が環境にもたらす負の影響に対して、いかに取り組むかが、サステナブルな大会にして行くための試金石となる。
そこでまず着手したのが会場の選定だが、大規模なバレーボール大会を開催できる常設のスポーツ施設が北九州市にはなかったため、小倉駅から徒歩5分の西日本総合展示場に仮設スタンドを設営することを決断。約8,000席という大規模な観客席を設営するため、大会9日前から着工を開始。10トントラック25台分のパーツを組み上げた。
使われた資材のほとんどはリサイクル可能なパーツで、大会が終わった後も廃棄されることなく再使用される。施工会社も率先してSDGsの取り組みに協力してくださり、通常なら千葉から北九州までトラックで輸送するところ、貨物鉄道へのモーダルシフトにより、CO2排出量を18.573 トンから4.033 トンと、14.540 トン(78%減)もの削減に成功した。
仮設スタンドはどの座席からもコートを見やすくするため、スタンドの角度や座席のレイアウトにこだわった。最前列、ほぼコート上に位置する「エキサイトシート」の満足度を向上させると共に、後方の座席でもコートを間近に感じることができるよう設計。全ての観客が迫力と臨場感を味わい、試合観戦をこれまで以上に楽しんでいただくことができた。
後編では、SDGsの実現や、未来を担う子どもたちのために行った新たな取組や、福岡県と北九州市で36 億円以上の経済波及効果と、302 億を超えるパブリシティ効果を生み出した大会の成果について紹介する。
◇青山 アリア(あおやま ありあ)
FIVB/Volleyball World Strategic Partner 株式会社CB 最高執行責任者
イスラエルの国際コンサルティングファームを経て、官公庁の国際広報アドバイザーとして従事。2017年株式会社CBの役員に就任。文化外交のエキスパートとして日本の魅力を発信し続け、日本と世界各国の文化人、外交官、スポーツ連盟などとの架け橋として活動することで、平和で安定した国際社会の実現を目指している。VNL2024福岡大会組織委員会副会長、X Games Japan組織委員会理事、日本パラクライミング協会理事、日本国際広報戦略機構代表理事も務めている。
※所属・肩書等は2024年10月の執筆当時のものです