北海道コンサドーレ札幌(以下、コンサドーレ)は、継続的な事業拡大を目指しアジアに着目した。2016年、博報堂DYメディアパートナーズ(HDYMP)との業務提携を活用する形でタイ現地企業とのネットワーク構築を進め、2017年にはタイのスター選手であるチャナティップ選手を獲得。現地でコンサドーレの人気が高まる中、タイの現地企業と日系企業とをつなげる新たなビジネスモデルが生まれている。
展開コンテンツ | 広告事業、現地ネットワーク |
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展開先 | タイ |
インバウンド需要の創出を重視し、北海道への観光入込客が多いアジアに着目
北海道内での事業展開に加え、道外を巻き込んでどのように規模を拡大していくか。それがコンサドーレの課題であった。元々札幌のチームだったが2016年、クラブ創立20周年の節目に、ホームタウンを北海道全域に広げた。北海道には中韓、台湾などアジア圏から多くの観光客が訪れるため、インバウンドによる経済効果が大きい。継続した事業拡大のためには、このインバウンド需要の創出がカギであると考え、Jリーグと共同で海外事業を進めた。
具体的には、東南アジアを中心とした海外クラブとのクラブ間提携締結や海外でのPRイベント、キャンプ開催等海外でのプロモーションを積極的に行った。そのような背景から、コンサドーレは2022年時点で北海道内10市町村とインバウンド旅行者の対応に向けた包括連携協定を結んでいる。2025年までに締結自治体を20市町村に広げ、地域貢献活動を拡大する方針だ。
大手広告会社との提携が海外ネットワークの構築につながった
2013年、ベトナムのスター的存在であるレ・コン・ビン選手を獲得した際、コンサドーレはアジア選手のポテンシャルや加入における観客獲得などのプラス要素を実感することとなった。それ以降、アジア戦略において選手獲得を重視するようになる。
選手獲得を含む海外事業を推し進めていくにあたり、アジア各国でのネットワークの構築が大きな課題だった。そこで、2016年1月にチームプロモーション強化のために大手広告会社博報堂DYメディアパートナーズ(HDYMP)と7年間の契約を結ぶ。アジアへの進出を進めていきたいクラブにとっては主に人材面、ネットワーク面でリソースが不足していたことが課題であった。
HDYMPとのパートナー契約締結によりHDYMPからコンサドーレに人材が入り込むことで、コンサドーレの海外事業拡大を担うリソースを確保し、かつHDYMPが持つ現地企業、現地日系企業とのネットワークを活かすことでコンサドーレの現地ネットワーク拡大が促進されることとなった。体制面、ネットワーク面でも大きな効果を生むパートナー関係となっている。
スター選手をアイコンに、日系企業の現地プロモーション活動を支援
2017年には、「タイのメッシ」とも呼ばれるスター、チャナティップ選手を獲得。選手獲得に向けた戦略が実を結ぶ形で、現地タイでのプロモーションやビジネス展開をさらに進められる素地が整った。
獲得後には、Jリーグとも連携しつつアジアでのイベント開催、タイでのキャンプ開催を通し、現地サポーター層の拡大と認知度向上を図った。具体的には、日系企業による現地タイ市場へのプロモーションに対し、チャナティップ選手を販促のアイコンとして提供することが多い。BtoC(消費者向け)サービスを扱う企業が多いことも特徴だ。
タイに現地法人を置いている横浜冷凍株式会社には、現地社員のエンゲージメント向上に向け、チャナティップ選手を巻き込んだ取組を実施している。具体的には、スター選手を支える企業として社内広報、社内研修にチャナティップ選手を組み込み情報発信することで、モチベーションの醸成、ブランディング形成を進めることができている。
スポーツを通した現地企業とのネットワークがビジネスチャンスを生む
現地でのコンサドーレのプレゼンスが高まった結果として、日本企業の海外展開を支援する新たなビジネスモデルを構築している。
チャナティップ選手が元々所属していたムアントンユナイテッドの親会社はタイでJリーグ中継を運営するサイアムスポーツであり、同社の親会社はタイの王室系財閥であるサイアム・セメント・グループ(以下、SCG)であった。コンサドーレも、SCGとの連携を通じて幅広い現地企業とのネットワークを構築し、日系企業の海外展開支援の機能を持てるようになったからだ。
日本企業と現地企業のマッチングを支援した事例としては、赤城乳業株式会社(以下、赤城乳業)が挙げられる。現地の財閥チャロン・ポカパングループ(CPグループ)を紹介することで、赤城乳業は、タイのセブンイレブンで自社の商品販売が可能になった。
選手獲得を軸にアジアのネットワーク拡大を期待
コンサドーレは、チャナティップ選手が川崎フロンターレへと移籍した後も、タイリーグ王者のブリーラム・ユナイテッドからスパチョーク・サラチャート選手を獲得。獲得と同時にブリーラム・ユナイテッドとのクラブ間提携も締結した。
ブリーラム・ユナイテッドのオーナーはタイ政府の様々な省庁で大臣を務めた元政治家のネウィン・チドチョップ氏。ネウィン氏との戦略的な関係構築により、タイの政界・経済界とのネットワーキングに大きなアドバンテージとなることが今後期待されている。
現地のサッカー界には、政治家をはじめとして経済的に大きな影響力を持っている人物が多数いる。サッカークラブをハブとしたネットワーキングはその点も大きな強みとなり得るだろう。イベントを開催することで地元有力者とのネットワークを広げつつ、更なる事業展開を行う方針だ。
一方で、課題もある。現在、コンサドーレから現地への常駐はなく、事業の推進主体としての人材リソースの不足から、機会を十分に活用することが難しい場面もある。海外展開へ十分な社内リソースを確保できるかどうかが成功のカギを握っている。
◇担当者コメント
Jリーグとクラブが連携して「アジア戦略」を進めてきましたが、重要になるのはいかに海外のキーマンとの関係構築を図るか、であると考えています。サッカーはグローバルスポーツであり、特に東南アジアにおいては圧倒的なサッカー人気があり、さらにはアジアの出場国枠が拡大し、W杯という大きな目標に向かい国民全体がサッカーで盛り上がる環境があります。
そういった環境を活かし、ビジネスにも好影響をもたらすアプローチとして、サッカーやスポーツという万国共通の“言語”を通じて、コンサドーレの存在が海外のステークホルダーとの関係構築の大きな足掛かりになっていきたいと考えています。
株式会社コンサドーレ パートナー事業本部 竹内一弘氏
#タイ #Jリーグ #スポンサー #マッチング
※所属・肩書等は2022年6月の取材当時のものとなります