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世界のスポーツ展示会比較と国別賃貸・労働条件の比較(スポーツシンクタンク戸井田朋之)

2022.07.20

ドイツ・ミュンヘンのISPO展。筆者撮影

1年延期された東京夏季オリンピック・パラリンピックも、コロナ禍の中でなんとか無事に大会を行うことができました。日本の皆さまや五輪関係者の皆さまのご協力に心からの敬意と感謝を申し上げたいと思います。また、2022年の北京冬季オリンピック・パラリンピックもオミクロン変異株との一騎打ち。一般客の入場も制限するなど、先行き不透明な状況となりました。そんな中でも、世界発展の為に準備を進めておくことも大切です。

今回は、世界に目を向けて国際的展示会ならびに海外店舗の為の国別賃貸・労働条件の違いをご紹介させていただきましょう。まず、世界デビューの架け橋的なプラットホームになりえるのが展示会出展です。そして販路を国内から世界に拡大させるために、海外に店舗を設けることも一手だと思います。従いまして、展示会と海外店舗という2つの切り口から詳しくご説明申し上げたいと思います。

世界のスポーツ展示会比較

世界で最も大きなスポーツ展示会は、ドイツ・ミュンヘンで開催される「ISPO(イスポ)展」です。50年以上の歴史を誇り、出展社数も世界最大の2,900社と、名実ともに最も影響力のある世界最大のスポーツ展示会と言えます。スポーツ業界の雄であるAdidas社やVogner社のお膝元であり、オリンピック開催地でもあります。第1回のコラムでミュンヘンがスポーツの「震源地」と表現した所以です。

一方、ヨーロッパ大陸の「ISPO展」に対して、アメリカ大陸でのスポーツ展示会と言えば「Outdoor Retailer Show」です。 ラスベガスで開催され、ロッキー山脈の流れを汲んでアウトドアブランドの聖地となっています。もちろん、双方の展示会に出展している企業もあり、世界を制するには大市場である欧米双方の発信基地に存在感を出すことが重要となります。

上記2つのスポーツ展示会と比較をしていただくために、主要アパレル展示会 (PITTI UOMO、MAGIC)や素材展(Premiere Vision)も挙げさせていただきました。スポーツブランドでは多くのブランドが同時にファッション展示会にも出展しているからです。スポーツ展とファッション展の大きな違いは、場所代だけか壁付のパネル付きかの違いです。換言しますと、土地代だけなのか建売りなのかの違いです。

上記リストにある「出展料(借料)」で説明すると、比較的安価なスポーツ展は場所代だけの価格であり、それぞれの企業やブランドの独自性を重んじる意向から、自由なブース装飾を期待しています。一方のファッション展や素材展は、展示会全体のイメージを重視する立場から、外面的に画一的なブースにするため、お隣との境に用いる壁代も含まれています。

スペース代だけで比較すると、スポーツ展示会の約2倍がファッション展の出展料といえますが、上物施工物も合算すると約1.8倍となります。参考までに、国内でのスポーツ展示会(SPORTEC)の場所代も挙げさせていただきました。

スポーツ展示会への初出展では、だいたい3m×6m=18㎡くらいのスペースで出展される企業が多いです。ですので、初出展の際の平均出展料は60万〜90万円くらいを想定しておくとよいでしょう。展示会ブースの装飾費用は、だいたい出展料(スペース代)と同等の予算を組む出展社が多いです。

展示会ブースに関しては、どこまでこだわるか、どこまでお金をかけるのか、出展企業様によって本当に様々です。ブース装飾業者に依頼してこだわりのブースを作るケースはもちろん、自社で装飾品を用意して従業員様のみで準備をされる企業もいらっしゃいます。ブースの装飾の違いによって集客や効果に大きく影響がます。重要なのは費用対効果と満足度です。

展示会予算として出展料とブース装飾費について想定できる方は多いと思いますが、その他にかかる費用として割と大きなものが「展示製品の運搬にかかる費用や諸経費」です。どのような製品の展示なのかにもよりけりですが、実機の展示をする出展者や、出張する必要がある出展者は必ず抑えておいてください。

費用はだいたい1人当り国内10万円〜海外50万円と想定しておくとよいでしょう。総費用としては、出展料は国内外とも大きな差はありませんが、宿泊費含む出張費用の差が現場派遣の人員数によって変わってきます。仮に、ISPO展やOutdoor Retailer Show展に16㎡で出展し、華美な装飾を避け最低限のサンプルディスプレイをすると仮定し出張要員4名とした場合、総額で330万円~400万円の予算設定が必要となります。

また、このコロナ禍に対する展示会運営サイドの姿勢も違いが出ています。フランス・パリのTex World(2月7日〜)、 Premiere Vision(2月8日〜)といった両素材展は開催され、1月23日~26日に独ミュンヘンで開催予定だったISPO展は中止となっています。

このISPO展は、2020年11月末、コロナ禍を契機に開催期を大幅に改革すると発表しました。

■コンシューマーフェスティバル(B2C2B):2022年11月25日(金)〜27日(日) 

■B2Bトレードショー:2022年11月28日(月)〜30日(水)

・B2Bの従来の展示会前に、一般消費者の入場を許可し、エンドコンシューマーの意見を聞くことにする

・1990年代、展示会後にミュンヘンの大学・高校はじめ学生を対象に、最終日に一般開放した例がありました。開催前の週末に一般開放するのは「モーターショー」の運営に近いですね

・また、この展示会期間をかねてから希望していたのはシューズメーカーで、特にNIKE、Adidasなど大手スポーツ企業が1〜2月開催だと出展しない意向をほのめかしていました。その希望に沿った形となるわけです。かえってアパレルメーカーやアウトドアメーカーにとっては早すぎる開催となり、根本的に年間スケジュールを見直すことになりそうです

海外店舗の為の国別賃貸・労働条件の違い

企業やブランドの方向性によって、海外店舗を設けるべき国や街は違うと思いますが、日本企業が進出する場合もっとも大切なことは、「黒字の確保」「現地化」そして「需要と供給」です。

・「黒字の確保」・・とかく体裁や日本への良いイメージ訴求と考えがちですが、黒字確保が鉄則です

・「現地化」・・・・日本での成功事例を伝えつつも、ゆくゆくは現地人による現地人の為の店舗に変身させていくこと

・「需要と供給」・・その店舗の商圏とターゲットを明確化し、仕入れと売り上げのバランスを常に意識すること

海外店舗を準備するためにまずは駐在員の派遣が必要ですが、出張で何度も往復させるよりもある程度の期間は現地に住まわせてその街の空気を吸い、その街の特徴を十分に理解することが必要です。

ご参考までに、主要国のレンタルオフィスの相場観を会得いただくために、平均的な賃貸料をリスト化してみました。日本企業が駐在員を派遣する場合、オフィス賃貸料に加えて住居費も加算しておかないといけません。単身赴任をベースに、平均的なオフィス21㎡+住居60㎡を右欄に添えました。国別や都市別に比較いただけます。

色々な物件を見て回りましたが、世界120カ国以上・1,100都市を超える地域、3,400拠点に及ぶオフィスを有するレンタルオフィスのRegus Groupが最適だと思います。1箇所のオフィスに契約しておくと、世界3,400拠点どこでも使えるという最高の利点があります。海外店舗を設けられた時には、店舗の中にオフィスを合体させて経費削減化を図りつつ、店舗運営をするのも得策です。

また、「需要と供給」という視点から物流に関しても目ざとく調べておく必要があります。ひと言で倉庫業と言いましても、奥は深く、日本では運送企業が対価に見合ったサービスレベルなのですが、残念ながら相対的に欧米企業のレベルはかなり低いと言わざるを得ません。従って、倉庫にも頻繁に足を運び、倉庫スタッフにブランドを覚えていただく努力さえも惜しんではいけないと思います。

日本とは違い、給与に関しては物価と相まって比較的高いレベルにあります。また、労働者の立場を大切にするフランス、イタリアでは実力が伴っていなくてもむやみに解雇できない国もあれば、契約条件に満たない場合は問題なく解雇できるイギリス、スイス、オランダなどがあります。国情をよく学習し、現地での雇用を進めていただきたいと思います。

ヨーロッパでは、唯一の英語圏という事でイギリスに進出する企業が多くありました。日本での第一外国語が英語であり、海外派遣の継続性が見えるからです。また、海外企業を積極的に誘致するために法人税を低税率に設定し、加えてEU統合の利点を生かしイギリスから全ヨーロッパをコントロールする体制を組んでいた企業が1,000社以上にも及んでいました。

しかしながら、2020年にイギリスがEUから離脱したことにより、大陸の方にヨーロッパ本部を移転する企業も増えてきました。ここぞとばかり、オランダやスイスのように海外企業誘致に今まで以上に条件の良い特別恵遇税を導入する国も出てきました。

各資料は全て筆者が現地で調査し、2年を要して作成したものです。ただし一部の数値については、OECD、JETRO、RX Japanの各HPを参考にしました。

◇戸井田 朋之(といだ・ともゆき) 

株式会社スポーツシンクタンク 代表取締役社長 CEO

1953年生まれ。元順天堂大学スポーツ健康科学部客員教授。文化服装学院・文化ファッション大学院大学客員講師。2024年パリオリンピック夏季大会国際アドバイザー。パリ在住。

慶應義塾大学卒業後、株式会社デサントに入社。入社3年目でフランスのパリに駐在し、ヨーロッパの主たるリゾートスキー場のスキースクールユニフォームの受注活動を行い、現在の欧州販売網の基礎を作った。1980年からIOC(国際オリンピック委員会)会長となった故サマランチ氏に息子のように可愛がられ、1984年サラエボ・オリンピック開会宣言の場でのデサントウェア着用シーンが世界中に報道され、一気に同社を国際ブランドとデビューさせた牽引者。

今まで計21回、オリンピックの現場で世界のトップアスリートやIOC(国際オリンピック委員会)を支え、並行して英仏語に留まらず多国語マスターの能力を活かしてデサントブランドの国際戦略を先陣。帰国後は、企画部長やSP販促部長を歴任し、取締役就任後は新たに地方自治体との官民コラボレーションにも成功。過疎地指定されている群馬県みなかみ町を復活させ経済産業省から表彰される。

また一方ではDA PUMP、モーニング娘。、加藤あい、優香など新人タレント発掘の傍ら、スポーツ業界のCMに初めて芸能人を起用するなど、業界きっての積極的な「仕掛け屋」。そして再度のヨーロッパへ赴任。パリ、ローザンヌ、ロンドンで駐在後、2017年7月起業独立し、現在は国内外の大学で教鞭をとる傍ら、海外企業・国内企業複数社とコンサルティング契約を結び活動中。JALの機内食「うどんde SKY」の名付け親。

スポーツ産業の国際戦略には、情報力・販売力・物流力・交渉力そして継続的マーケティング力が必要と説き、グローバルな視点に立つモノの見方は、シャープで素晴らしいと評価されている。


※所属・肩書等は2022年3月の執筆当時のものです

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