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ニュースポーツに注目。世界スポーツ市場への「傾向と対策」(スポーツシンクタンク戸井田朋之)

2022.07.20

2年以上にも及ぶ「コロナ」の影響で海外渡航も制限され、とかく視野が狭くなっていませんでしょうか?海外情報は蚊帳の外となり、国内情報とSNSを通じた情報だけで満足している自分がいるようにも思います。しかしながら、常に日本以外の国々に起こっている現象や新たな動きに敏感になっておくことが大切です。そこに新たな発見や新規ビジネスへのヒントが隠されているからです。世界市場への挑戦には、旬な傾向分析と日本企業ならではの独自対策が必要なのです。

今回は、世界で急激に人気が拡大している「新しいスポーツ種目」をご紹介します。中には2032年の夏季オリンピック競技種目に新規採用されるよう取り組んでいるものもあります。スポーツ産業としてスポーツ参加の裾野を拡大し、新たな楽しさを提供する立場にあることを自覚し、今回は、「世界のニュースポーツ」であるヘディス、ビリッカー、フットゴルフ、eスポーツの4つを紹介します。日本ならではの技術力と開発力を加えることによって、世界市場に打って出るビジネスチャンスも増えてくると思います。

ヘディングと卓球の組み合わせ「ヘディス」

世界で10万人の競技人口を誇るヘディス。著者撮影

サッカーのヘディングと卓球を組み合わせた新スポーツ「へディス(HEADIS)」は、どの国でも人気沸騰中です。へディスというスポーツが生まれたのは、今からたった16年前の2006年のこと。ドイツのザールラント大学でスポーツ科学を学んでいた学生のレネ・ウェグナーが、サッカー場が混んでいたため、卓球台で友人とヒマを潰したのが始まりです。世界最大のスポーツ展示会「ISPO」(ミュンヘン)でも紹介され、展示会場内でテストイベントも行われていました。

用意するものは卓球台、専用ネット、ハンドボールくらいの大きさ(直径15.9センチ)の柔らかい専用ゴムボールのみ。 ヘディングだけで打ち合う球技で、卓球とルールは似ていますが、バウンドする前に打ち返してもOK(1バウンド以上の返球は失点)、台に手をついてもOK、サービスは3本交代と特有のルールもあります。 

現在ヘディスの競技人口は世界で10万人。ドイツやチェコ、オランダ、スペイン、ドミニカ共和国などでも展開していて、日本はアジアでは中国に続き2番目、世界では10ヵ国目です。ちなみに日本での競技人口はまだ300人ほどです。 

「テニスの王子様」の作者として有名な許斐剛(このみ・たけし)さんは、実はこのへディスを題材にした読みきりマンガを2015年に早くも発表されていたのです。

また、2017年の夏には日本では初となる「第一回 全日本ヘディス選手権」が開催されました。真夏の7月9日~ 8月13日まで全国4か所でエリア予選が行なわれ、関西、東海、九州の予選では各2名ずつ、関東予選では4名の勝者を選出。合計10名で「初代日本一」を決める決勝大会が8月20日に東京で開催されました。

日本総代理店はマイヒーローという会社です。同社の名越卓也社長が、この種目の動画をYouTubeで見て「シンプルで面白い!」とドイツに連絡し、ライセンス契約を結ばれました。前述の大会の優勝者は、世界最大の公式大会に日本代表として派遣というプレゼント付きで、サッカー経験者が多く参加されました。また、日本の小売店や卓球場でも静かに広がってきています。広島市西区にあるヒロタクスポーツでもヘディスができることをホームページでアピールされています。

意外にもルールのバランスはちょうどよく、スポーツとしてはきちんと成り立っています。サッカーボールなどよりも柔らかいゴム製のボールを使うので、初心者が抵抗なく始められそうな点もよいところ。

卓球も東京オリンピックでは若き日本選手団の活躍で俄然注目を浴びてきました。 その卓球台が卓球競技以外にも、ヘディスというニュースポーツで使用できるとあれば、卓球場・学校のみならずリゾート施設でもその需要は今後ますます増えてきそうです。

ビリヤード×サッカーの「ビリッカー」

次にご紹介するのは「ビリッカー(BillicceR)」。 フランス生まれのビリヤード×サッカーの新しいスポーツです。

現地では「スヌークボール(Snook Ball)」と呼ばれるこのゲーム、やることはビリヤードと同じです。 ビリヤード台をそのまま大きくしたようなものが競技場で、サッカーボールに、おなじみのビリヤードの球の色・数字のデザインが施されています。球は3号球のサッカーボール15個+手球1個が1組です。

基本的なルールはビリヤードと一緒で、キューで手球をつく代わりにキックやヘディングで手玉を転がします。 遊ぶ人数はビリヤードと違ってチーム制。みんなでワイワイ楽しめます。日本では、都内でビリッカーを体験することができるようですので、体験いただければと思います。

サッカーとゴルフの融合「フットゴルフ」

「フットゴルフ(FootGolf)」は、サッカーとゴルフを融合させたような形態のニュースポーツです。 このフットゴルフ、実は来る2024年のパリ夏季オリンピック正式種目に採用を目指してスポーツアコードへ正式に申請を済ませていたのですが、実現はなりませんでした。ただ、それほど本気モードなのです。 

ゴルフクラブとボールの代わりに、競技者自身の足とサッカーボールを使って行うゴルフであり、コースに設けられたホール(穴、カップとも)にいかに少ない打数で入れられるかを競い合います。 国際フットゴルフ連盟(FIFG)が国際的な競技統括団体であり、日本では日本フットゴルフ協会が競技を統括しています。

2012年6月にハンガリーで第1回ワールドカップが開催されたのを契機として、10年経過した現在では日本を含む40の国と地域がFIFGに加盟、世界1,500ヶ所にコースが設けられています。国際フットゴルフ連盟は、第1回フットゴルフワールドカップの開催が行われている最中に結成されました。

設立時点の加盟団体はオランダ、アルゼンチン、アメリカ、ハンガリーなどを含む10の加盟国・地域でしたが、翌2013年には17ヶ国・地域、2014年には日本なども加盟して28か国・地域に増加しました。日本では2014年2月に日本フットゴルフ協会が設立されたほか、同年4月には第1回フットボールゴルフジャパンオープンが開催されました。

フットゴルフの誕生は、若年層のゴルフ人口の減少が進んだのと同時期で、この時期に相当する2006年から2014年の間にはアメリカで643施設のゴルフ場が閉鎖となっていました。このような中でフットゴルフはゴルフ人口の減少により経営難に陥っているゴルフ場に多大に貢献しており、全米ゴルフ協会と世界ゴルフ財団はフットゴルフの貢献を公式に認めたうえで、フットゴルフはゴルフ自体の成長も促しうる存在であると言及したのです。

2017年時点では10,000人がプレーし、国内最高峰の大会「フットゴルフジャパンオープン」は年内で33回大会まで予定されています。 尚、2021年9月22日〜10月3日、栃木県さくら市セブンハンドレッドG倶楽部で開催予定だった「FIFG Foot Golf World Cup 2021 日本」は、コロナの影響でやむなく中止となりました。

eスポーツ

「eスポーツ」とは、エレクトロニック・スポーツ(Electronic Sports)の省略形で、複数プレイヤーで対戦されるコンピューターゲームをスポーツ・競技として捉える際の名称として使われています。

2024年にパリで開催される夏季オリンピックでeスポーツが追加種目として選ばれる可能性も一時は浮上していましたが、結果的には採用決定には至りませんでした。

eスポーツは1980年から2000年に生まれたミレニアル世代を中心に人気を集めていると言われており、世界の競技人口は1億人と意外に多く、 世界のスポーツ競技人口と比較しても競技人口ランキング4位のテニスと同じくらいの人口になります。アメリカではアメフトやバスケのプロスポーツ業界を脅かす存在になっているといわれるほどの存在感を示すまでに至っています。

一方で、ゲーム大国と呼ばれる日本はゲームへの概念がまだまだ「娯楽」止まりで、世界からはeスポーツ後進国として認知されています。 人口からみても今やeスポーツはメジャーなスポーツとして世界では認知され、韓国では「なりたい職業ランキング」で野球を抑えて2位に君臨しています。

世界ではゲーム=スポーツという文化が生まれていますが、日本ではゲームがスポーツという解釈は浸透していません。eスポーツは必ずしもプレイヤーが肉体を鍛え上げて運動能力の限界に挑むというわけではありませんが、ひとつの競技に対して多くの人が一喜一憂して勝負の行方を固唾をもって見守る、という点に「プロスポーツ」としての魅力が備わっているといえます。

eスポーツは大規模なスポーツ大会でも存在感を示し始めており、2016年に開催されたリオ五輪では同時期に「Rio De Janeiro eGames」が開催されました。また、2018年にインドネシアのジャカルタとパレンバンで開催されたアジア競技大会では、eスポーツのデモンストレーションが行われ、続く2022年に開催される同大会では、アジアオリンピック評議会が中国アリババグループのAlisportsと提携し、eスポーツを正式なメダル種目として選定するに至っています。

eスポーツの大会は欧米やアジアなど世界各国で毎年開催され、テレビ中継がされるなど注目を集めているため、ハードウェアメーカーやファストフードなど様々な企業がスポンサードしています。賞金総額が1億円以上となる大規模な大会もいくつかあり、世界各国の選手が参加しています。

プロのプレイヤーは大会賞金のほか、スポンサーによる援助やキャンペーン出演料などを収入としており、中には年収が1億円を超える人気プレイヤーのFatal1tyのようにPCパーツのブランドをプロデュースする選手もいるほどです。韓国では、国民的人気を得てタレントのように各方面で活躍している選手もおり、若者から多くの支持を得ています。

一方で、日本は先進国の中でも数少ない「eスポーツ未承認国」です。国内eスポーツイベントを数年にわたって扱い、eスポーツグラウンドなどを開発したエウレカコンピューターに所属する犬飼博士は、2007年アジアオンラインゲームカンファレンスでのコメントより、「eスポーツ」を次のように定義しています。

・プレイヤーの行動をデジタル化して、コンピューター上で競技するスポーツ

・工業社会に生まれたモータースポーツのように、情報社会に生まれた新しいスポーツ

他のスポーツと比べて身体を動かすことがあまりないものの、スポーツとして認識されているゲームのひとつにチェス(マインドスポーツ)やダーツがあります。eスポーツは「大会などで順位を競うこと」「プロとして収入を得ること」「真剣な姿勢で対戦を行うこと」など、その言葉は使われるシーンに応じて様々な定義に基づいていることがありますが、似たような例として、スピードを争う「F-1」や「ラリー」のようなモータースポーツも挙げられると思います。

改めて、eスポーツは日本での普及は海外に比べて遅れを取っています。ゲームは世界でスポーツとして、さらには職業としても浸透してきました。某エネルギー飲料メーカーは様々な分野において、アスリートをスポンサーしています。高橋正人氏は、同氏が主催するゲーム大会「Kumite」で優勝するなど数々の大会で受賞してきており、その成績が認められ契約アスリートの一員として加わりました。日本人がこの世界的有名な飲料メーカーの契約アスリートとして活躍する中、今後の発展に目が離せません。

結びに

ご紹介させていただいた初めの3つのニュースポーツは、すでに存在するスポーツ競技と異なるスポーツ競技を掛け合わせ、ミックス・コラボされたものばかりです。一見、本来の競技とは違う見慣れないスポーツとなりますが、すべて理にかなった競技種目となっています。

その気軽さも受けてファン層は広がりつつあります。さらには「みんなで楽しめそうなレジャースポーツ」だけに、これからも裾野は広がりそうです。生涯スポーツとして、シニア層を中心に人気の高まりそうな種目とも言えます。ビジネス的にも、卓球場やゴルフ場など集客に困っていた受け皿が、このような複数の種目のプレーを可能とすることで、稼働率が上昇することになり、足を運んでもらうための新たな提案にもなりそうです。

eスポーツは、アジア大会をはじめ各種大会で参加アスリートが、どのようなウェアやシューズを着用しているのかをウォッチし、彼らのパフォーマンスが着用アイテムによってどのように向上できるのか?といった「仮想ニーズ」を事前に研究しておくことで、新たな市場やチャンスを掴める可能性があると思います。

eスポーツを夏の五輪種目ではなく、立候補地難・集客難に陥っている冬の五輪種目の候補にあげれば、天候に左右されずインドアでどこでも開催できます。それこそ「冬場の目玉種目」になりえますので、立候補地は新種目として一考の余地があると思います。

将来、スポーツ小売店が店内にeスポーツコーナーを設ける日もそう遠くはないでしょう。今までスポーツやオリンピックから距離を置いていた企業がスポンサーとなり、市場を盛り上げることになるかもしれません。

◇戸井田 朋之(といだ・ともゆき) 

株式会社スポーツシンクタンク 代表取締役社長 CEO

1953年生まれ。元順天堂大学スポーツ健康科学部客員教授。文化服装学院・文化ファッション大学院大学客員講師。2024年パリオリンピック夏季大会国際アドバイザー。パリ在住。

慶應義塾大学卒業後、株式会社デサントに入社。入社3年目でフランスのパリに駐在し、ヨーロッパの主たるリゾートスキー場のスキースクールユニフォームの受注活動を行い、現在の欧州販売網の基礎を作った。1980年からIOC(国際オリンピック委員会)会長となった故サマランチ氏に息子のように可愛がられ、1984年サラエボ・オリンピック開会宣言の場でのデサントウェア着用シーンが世界中に報道され、一気に同社を国際ブランドとデビューさせた牽引者。

今まで計21回、オリンピックの現場で世界のトップアスリートやIOC(国際オリンピック委員会)を支え、並行して英仏語に留まらず多国語マスターの能力を活かしてデサントブランドの国際戦略を先陣。帰国後は、企画部長やSP販促部長を歴任し、取締役就任後は新たに地方自治体との官民コラボレーションにも成功。過疎地指定されている群馬県みなかみ町を復活させ経済産業省から表彰される。

また一方ではDA PUMP、モーニング娘。、加藤あい、優香など新人タレント発掘の傍ら、スポーツ業界のCMに初めて芸能人を起用するなど、業界きっての積極的な「仕掛け屋」。そして再度のヨーロッパへ赴任。パリ、ローザンヌ、ロンドンで駐在後、2017年7月起業独立し、現在は国内外の大学で教鞭をとる傍ら、海外企業・国内企業複数社とコンサルティング契約を結び活動中。JALの機内食「うどんde SKY」の名付け親。

スポーツ産業の国際戦略には、情報力・販売力・物流力・交渉力そして継続的マーケティング力が必要と説き、グローバルな視点に立つモノの見方は、シャープで素晴らしいと評価されている。


※所属・肩書等は2022年3月の執筆当時のものです

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