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ミズノの新イノベーションセンター「MIZUNO ENGINE」が紡ぐブランドのDNAと、これからのグローバルでの戦い方【後編】(JSPIN事務局)

2024.12.19

ミズノ株式会社 グローバル研究開発部 部長 佐藤夏樹氏

2018年11月1日、ミズノ株式会社はブランドスローガンを「REACH BEYOND(リーチビヨンド)」に刷新。企業創立100周年に制定したスローガン「明日は、きっと、できる」から一歩進め、「いつも、その先に向かっていく」という企業姿勢を新たに表現した。

2022年に新設したイノベーションセンター「MIZUNO ENGINE」は、「はかる、つくる、ためすの高速回転」と「オープンで化学反応」をコンセプトに生まれた。前編に続き、ミズノが今後大きく海外売上比率の向上を目指す中、研究開発施設の役割についてグローバル研究開発部部長を務める佐藤夏樹氏に聞いた。

ますます重要になる海外市場

日本発のメーカーとして、徐々に海外での売上も伸ばしており、2022年度の決算では海外売上比率は38%、前年より4.1ポイント向上した。アジア・オセアニアを中心にしながら、欧州や北米での存在感も増してきている。

「会社としてはフェーズごとに注力する競技を定め、より多くのリソースを投下していこうという判断をしています。例えば現在では、サッカーのスパイクやランニングシューズをグローバルでしっかり伸ばしていこうというものです」(佐藤氏)

例えばサッカーでいえば、ミズノはスパイクだけでなくソックスや人工芝さえも製造している。競技に対してあらゆる面からか関わり、多くの研究を重ねているからこそ、真にパフォーマンスを発揮できるブランドになっている。

「既存製品の開発をしながら、将来に向けた新しい研究開発の種まきも行っています。ミズノならではの機能を製品により出せるようにしていきたいですね」(佐藤氏)

MIZUNO ENGINE」が日本にある意味

MIZUNO ENGINE(左)は大阪にあるミズノ本社(右)の隣に位置している

グローバルに市場を見据えた時、必ずしも研究・開発拠点が日本にある必要はない。もちろん大阪に本社があり、日本に事業拠点があることは事実だが、日本に「MIZUNO ENGINE」を立ち上げたのには特別な意味があるという。

「日本は、世界中の国々がこの先経験するであろう高齢化や運動不足による健康問題を、世界に先駆けて、課題先進国として直面している国です。もちろんミズノは競技者のパフォーマンス向上に取り組んでいますが、世界中で楽しく体を動かす人を増やして、健康寿命を延ばしたいと思っています」(佐藤氏)

ミズノでは各国の市場調査を通して、各地の子会社や拠点から消費者の趣味趣向や好みの色、デザインまでがグローバル会議で共有される。そんなグローバル体制の中で、イノベーションセンターが担っている役割がある。

「MIZUNO ENGINEを訪れる海外の人が口々にするのが、『ミズノのDNAがよく分かった』という言葉です。海外の社員にとってはブランドの特徴を掴み、新たなモチベーションにもつながっています」(佐藤氏)

MIZUNO ENGINEはミズノのものづくり精神を体現している

海外はもちろん、国内でも徐々に好影響が出始めているという。

「社内での行動が明らかに変わってきています。部門の壁を超える横連携があちこちから出てきていて、『自分たちの手でアイデアを形にしたい』という雰囲気を感じます。測って、作って、試す。これを高速回転させる。それが掛け声だけではなくて実現されていて、良い流れができていると思います」(佐藤氏)

MIZUNO ENGINEは、今、研究開発の拠点というだけでなく、ミズノに関わる人々をつなげる場所にもなっている。ミズノらしさを継承させる基盤となり、今後のさらなるグローバル化にも影響を与えつつある。

米国で気づいた、ミズノの「専門性の深さと幅の広さ」

佐藤氏は米国に3年間駐在していた経験がある。ミズノの米国オフィスは競合他社からの転職組も多く、彼ら、彼女らからよく耳にしたのが「凄いギアを作ることができる」というミズノの評判だった。

「世界では、ミズノが専門性の深さと幅の広さを兼ね揃えたスポーツメーカーという見られ方をしているのを改めて理解しました」と、佐藤氏。

ものづくりよりも広告宣伝に傾倒するブランドも少なくない中、世界で戦うためには独自路線のものづくりを極めるというのがミズノの勝ち筋なのかもしれない。佐藤氏はそう気づきを得たという。

「国ごとに異なる表面的、趣向的なニーズではなく、速く走りたい、遠くまで行きたい、転びたくない、不快を取り除きたいといった“人としての根源的で本質的なニーズ”に着目し、独自機能で勝負できるようになりたいと考えたのです」(佐藤氏)

「人の根本的なニーズに着目して開発したい」(佐藤氏)
 

今後、グローバル市場でのさらなる拡大を目指すミズノだが、日本ほど認知がまだ広がっていない地域もある。

「競技スポーツに注力して、そこから深く入っていく。その先には日本で行っているような健康寿命を延ばしていくような取り組みへと展開していきたいと思っています」(佐藤氏)

プロダクト部門が各国の販売店の要望を聞き入れながらも、最終的な決定権は日本の本社が持つのがミズノの特徴。全世界のニーズや要望はグローバル会議で挙がって吸い上げられていく。その上でどういった商品を中心にして世界で戦っていくかは日本主導で決めていく。

「次の戦いに向けてしっかりと作り込んでいます。様々な競技やアイテムに取り組んでいるミズノだからこそ、それらの知見を組み合わせていく。他社では思い付かないような新しい機能を作って、世界で戦っていくというわけです」(佐藤氏)

ミズノは専門性の深さと幅の広さを兼ね揃えたスポーツメーカー

最後に、ランニングシューズに関するひとつの実体験を佐藤氏が紹介してくれた。佐藤氏がミズノに入社する前、グローバルで販売していたランニングシューズは大赤字。日本以外での市場では撤退するかどうかまで迫られ、実際にドイツでは撤退を決断した。

当時、クッションにはゲルやエアーを使うのが当たり前。ミズノも衝撃吸収材で勝負に挑んでいたが、なかなか上手くいかなかった。そこで取った打開策は、「波型形状」のプレートが組み込まれたソールにより、これまで難しかった「クッション性」と「安定性」という二律背反を両立させるということ。波型形状のプレートをソールに組み込むのは難易度が高く、コストも掛かることから誰も実践したことがなかったという。

「シューズの常識を、用具の知見で壊すことで他社と全く違うものが生まれました。それによりMIZUNOに光が当たって、今でもグローバルでシューズが展開できるようになっています。世界で戦うというのはこういうことなのかと感じました」(佐藤氏)

1997年から発売を開始した波型形状のソール“MIZUNO WAVE”を搭載したランニングシューズは今でもファンの支持が根強く、今年9月には28代目となるWAVE RIDER28が店頭に並んた。ミズノの2025年3月期における売上予測では、野球、ゴルフに次いでランニングシューズの売上高が大きく60億円。前期に比べても、12.4%増と好調を続けているカテゴリーだ。

他社と似たり寄ったりの商品で勝負するのではなく、根本的に違う技術や機能を持ち込む――。ものづくりを中心としたミズノならではのチャンスは多く存在し、MIZUNO ENGINEという新たなイノベーション拠点が完成したことで、これまで以上にグローバルに勝負できる土台が固まった。

イノベーションはスポーツ用品だけでなく、なんと飲料にも!?

そして、イノベーションはスポーツ用品を超えて、なんと飲料にも波及している。

ミズノはスポーツ後の飲用を目的にしたノンアルコールビール「PUHAAH(プハー)」を南信州ビールと共同開発し、運動後の楽しみも提供しようという試みだ。

大人になるとなかなかスポーツが続かないと言われる中、「あの一杯のためなら頑張れる」という声を拾い、スポーツ後に飲むノンアルコールビールとして開発、発売に至った。フタを開ければフルーティな香りが漂い、飲み味はほのかな苦みで一汗流した後には堪らない。

より多くの人々が楽しく体を動かす社会を目指す。そんなビジョンを持ったミズノならではの「ものづくり力」が垣間見える商品であり、また新たなイノベーションを起こしているといえるだろう。

◇JSPIN事務局

JSPIN事務局のメンバーが、日本のスポーツ産業のさらなる国際展開を支援する活動等をご紹介します。


※所属・肩書等は2024年10月の執筆当時のものです

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