
ハイプレステージブランド『コスメデコルテ』を展開する株式会社コーセー(以下、コーセー)は2022年、大谷翔平選手とグローバル広告契約を締結した。近年は男性の美容意識の高まりや男性向けコスメ市場の拡大が進んでいるものの、女性が購買層の大半を占める化粧品の広告モデルに男性の野球選手が起用されるのは極めて珍しい。
さらに同社は2024年、ロサンゼルス・ドジャースと長期のパートナーシップを締結。スタジアムでの広告露出だけでなく、異例とも言えるチーム公式ストアでの商品販売も実現した。メジャーリーグベースボール(MLB)チームとの契約がどのように企業の北米戦略を進めているのか、株式会社コーセー コーポレートコミュニケーション部 課長の千葉拓也氏に話を聞いた。
大谷翔平選手とのグローバル広告契約で『コスメデコルテ』の売上が拡大
「いつもテレビで見ているそのままの姿で、周囲への気遣いをすごくされていたのが印象的でしたね」
そう話すのは、コーセーで広告・PRを担う千葉氏だ。大谷選手が『コスメデコルテ』のCM撮影に臨んだときのことを笑顔で振り返る。
「撮影はほぼNG無しで進行して、弊社のクリエイティブ担当者も本業がスポーツ選手とは思えないと絶賛していました」(千葉氏)
コーセーと大谷選手の関係は、2022年12月にグローバル広告契約を締結したことに始まった。翌年3月からは『コスメデコルテ』の美容液「リポソーム アドバンスト リペアセラム」のCM及び広告ビジュアルを展開。新規購入者が大幅に増加し、同年の同ブランド売上高は過去最高を記録。現在は、その実績をさらに上回る勢いで成長を続けている。

2025年3月に放映開始されたCM「自分が満たされる」篇で見せた「デコルテポーズ」は、ロサンゼルス・ドジャースのチームメートがこぞって試合中のセレブレーションとして披露したことは記憶に新しい。
「デコルテポーズは意図して狙ったわけではありませんでした。CMには大谷選手が(化粧品の)キャップを回すシーンがあって、実はそちらがバズるといいなと思っていたんです。でも結果的に(デコルテポーズが)ドジャースの選手たちの間で流行して、多くの人に知ってもらうきっかけになったことは本当にありがたい話です」(千葉氏)
認知度だけでなく、企業活動との親和性が重要
なぜコーセーは大谷選手とグローバル広告契約を締結したのか。化粧品モデルとして異例といえる起用の背景には、同社のグローバル戦略がある。
コーセーの2024年度決算における海外売上高比率は34.5%で、同社はこれを2030年までに50%以上とする中長期ビジョンを掲げている。中でも重要エリアの一つと位置付けているのが北米だ。
北米のスキンケア市場は日本の約2倍以上に相当する巨大市場であり、同社によれば今後も年2.6〜6.0%の安定成長が予測されている。千葉氏は「グローバルで成功している一流ブランドは欧米で存在感を示しており、我々のブランド力を確固たるものにするためにも北米で存在感を高めたい」とその重要性を口にする。

現状、コーセーの最高級ブランドとして国内で高い人気を誇る『コスメデコルテ』も、北米における認知度はわずか5.4%にとどまっている(同社調べ)。MLBで圧倒的な知名度と人気を誇る大谷選手の広告起用には、北米における認知拡大を狙いたいという意図があった。
また大谷選手の起用は、近年コーセーが経営活動において重視している「3G」とも合致する。新たな顧客づくりの拡大領域として、グローバル(Global)に加え、ジェンダー(Gender)、ジェネレーション(Generation)を掲げており、国境を越えて、性別・世代を問わず多くの人々に愛される大谷選手はまさに「3G」を体現した存在だ。
実際、大谷選手が『コスメデコルテ』のCMに出演して以降、国内では男性客が急増し、より幅広い世代が商品を手に取るようになった。真摯で誠実で勤勉、超一流で「本物」という大谷選手のパブリックイメージと、『コスメデコルテ』のブランドイメージが合致することも、ブランド浸透の大きな後押しとなっている。
ドジャースと長期のパートナーシップ契約を締結
2024年、コーセーは新たにロサンゼルス・ドジャースと3年間のパートナーシップ契約を締結した。
同年に大谷選手がドジャースに移籍したことで、球団側とコミュニケーションを取れるようになったのがきっかけだった。『コスメデコルテ』の北米展開を推し進めていくだけでなく、「これまで大谷選手とはあくまでも広告モデルとしての関係性でしたが、球団と契約することでスポーツ選手としての大谷選手をよりサポートできるようになる。より強固で長期的な関係性を築いていきたいと考えました」(千葉氏)。
さらに契約2年目となる2025年5月には、2027年から2029年までの次の3年間となるパートナーシップ契約を結び、早々に契約を延長した。
これまでもドジャー・スタジアム(ドジャース本拠地)の大型ビジョンでコーセーの商品広告が表示されていたが、契約延長に伴い、大谷選手がホームランを打ったときにはビジョンで『コスメデコルテ』のCM放映、ならびにスタジアム内の全てのLEDスクリーンで『コスメデコルテ』のロゴが表示、またドジャースがサヨナラ勝利を収めた際にも『コスメデコルテ』のロゴをスタジアム内の全ての LEDスクリーンに表示する権利が追加された。

さらに、ドジャー・スタジアム内の3つの公式チームストアで『コスメデコルテ』の商品を販売する権利も獲得。ドジャースのスタッフによれば、これまでに公式ストアでドジャース関連以外のものを販売した事例はないという。
では、なぜこのような異例の権利を獲得できたのだろうか。
「現地でデコルテポーズが話題になったことで、球場側に『あの商品は買えないのか?』という問い合わせが続いたようです」(千葉氏)

「桁違い」のパートナーシップ。効果測定は再定義が必要
コーセーとドジャースのパートナーシップ活動について、今後の展開をどのように考えているのか。一つは“ならでは感”だ。
今季のドジャー・スタジアムにおける『コスメデコルテ』商品の販売はシーズン途中で急遽決まったこともあり、「他の店舗で販売している商品と同じものを並べました。来季は、例えばドジャー・スタジアム限定のノベルティーを付けるなど、“その場ならではの魅力”を出す工夫をできないか検討しています」(千葉氏)。
2025年6月末から販売が始まったが、球場という化粧品を購入する目的で来場するわけではない場所にもかかわらず、予想以上の売れ行きをみせている。2029年シーズン終了まで販売は継続される見込みで、今後はドジャー・スタジアム“ならでは感”を付加することで、さらなる認知向上と売上拡大を目指す。
もう一つは、効果測定の再構築だ。
これまでコーセーは、フィギュアスケートやアーティスティックスイミングのような芸術性の高いスポーツや、スキー、スノーボード、スピードスケートなどのスノースポーツ、さらにはバレーボール、バスケットボール、サッカー、ブレイキンなど、多様なスポーツの団体やアスリートの支援を行ってきた。
そうした中で、スポンサーシップがどれだけ事業活動に効果をもたらしたかの測定も進めてきた。一方で、大谷選手との広告契約やドジャースとのパートナーシップに関しては、これまでにないグローバル規模の取組であることから、試行錯誤しながら最適な評価方法を模索している。

上述の国内のパートナー活動も統括する千葉氏は、スポーツ協賛において「継続性」の大切さを実感しているという。
コーセーは20年以上にわたりスポーツ支援に取り組んでいるが、その理由は1946年の創業以来掲げてきた「美を通じて人々に夢と希望を与え続ける」という使命を、スポーツの現場においても体現するためだ。
「長く続けてきたからこそ、多くの方に認知され、好意的に受け止めてもらえている。それが結果的には、スポンサーシップを最大限に有効活用する一番の近道かなと感じます。私たちとしては大谷選手、ドジャースとも長期的なパートナーシップを築いていきたいと思っています」(千葉氏)
化粧品と同様に、スポーツにも「人の心を動かす力」があると同社は考えている。選手が自信を持って競技に集中し、その姿を見た世界中の人々が元気や夢、そして希望を抱く――。そんな誰もが自信と活力にあふれ、個性を認め合える社会の実現を願って、国籍や年齢、性別を超えた多様なスポーツへのサポートをコーセーは継続していく。

◇JSPIN事務局
JSPIN事務局のメンバーが、日本のスポーツ産業のさらなる国際展開を支援する活動等をご紹介します。
