SDGsの実現や、未来を担う子どもたちのために行った具体的な取組や、福岡県と北九州市で36 億円以上の経済波及効果と、302 億を超えるパブリシティ効果を生み出した「買取大吉 バレーボールネーションズリーグ2024 福岡大会」(以下VNL2024福岡大会)。後編では、その具体的成果について紹介する。
VNL2024福岡大会での新しい取り組み
「クリーンな大会」をめざすVNL2024福岡大会では、今までにはない新しい取組が導入された。具体例を紹介する。
1. フードロス削減:ミールチケットの導入
大規模国際スポーツ大会の場合、選手団に加え、大会開催には多くのスタッフやボランティアが携わることになる。VNL2024福岡大会では、選手、スタッフ合わせて総勢約2,000名に、約20,000食以上の食事が提供された。
これまでの大規模国際スポーツ大会では、選手団にはホテルでのケータリングが、スタッフには利便性の観点から弁当が提供されるのが通例だった。しかし、過剰な仕入れや食べ残しなどによるフードロスは、資源の浪費や廃棄物の増加につながっていた。
そこで、今回は、過去のデータや経験を基に、ホテルのレストランでは、各国チームの食事傾向に応じた料理を提供し、食事の開始時間に合わせて出来立ての料理をサーブするなど、ホテル側の工夫と、ポスターやポップによる選手へのフードロス削減への啓蒙を図り、できる限り料理が残らないよう工夫。地元ホテルと選手団という提供側と消費側の両者の協力あっての試みとなった。
また、これまで、大会実施の際、当たり前のように多くの選手、スタッフ等にお弁当が提供されてきたが、今回は、それに替えて、近隣レストランで使用できるミールチケットを配付した。これは、余分な供給によるフードロスを削減するための試みで、これによって廃棄される弁当はゼロとなり、食べ残しも大幅に削減、非常に画期的なものとなった。ただし、運営で忙しいスタッフにフードチケットを使ってもらうために、ミーティングにおいて、今回の取組みの意義をしっかりと浸透させる必要があった。
このミールチケットを使っての食事提供については、北九州市に全面的に協力してもらったことが大きい。小倉駅周辺の駅ビルの運営会社、飲食店でのチケット使用が実現。会場隣の公園に配置されたキッチンカーの協力もあり、スタッフは、決められた弁当ではなく、自分の好きな店で好きなメニューを選び、温かい食事を食べることができたと満足度も高かった。まさしく地元とのパートナーシップを通じて実現することとなった、新たな取組だったと言える。
2. スティックバルーンの回収&リサイクル
VNL2024福岡大会では、環境負荷を減らすために、ごみの削減にも取り組んだ。最大の課題が、バレーボールの応援に欠かせない、スティックバルーンだった。スティックバルーンは通常使い捨てかつ大きなもののため、観客が試合会場を出た後、近隣のコンビニや駅のゴミ箱に捨てていくことが多く、地域社会に迷惑をかけることも多かった。そこで今回は、まず大会開催前から、男子日本代表の山本智大選手にご協力いただき、SNSで「クリーンな大会にするためご協力ください」というメッセージを発信してもらった。
そして、大会期間中には、すべての出口にスティックバルーンの回収ボックスを設置。回収を徹底するため、試合の前後にアナウンスしたり、スタッフが出口で呼びかけたりと、観客の皆様にご理解とご協力をお願いした。その結果、会場の回収ボックスは、スティックバルーンでいっぱいになり、ほとんどのバルーンを回収することができた。
さらに、回収したバルーンの処理も環境に配慮した方式をとることにした。廃棄物処理の最先端技術を持ち、持続可能な循環型社会の実現に取り組んでいる株式会社輝陽(きよう)の広島工場に依頼。焼却処理をせず、高温高圧加水分解の最新システムを使うことで、二酸化炭素の排出を大幅に減らし、残滓も大幅に減らせるうえ、セメント増量剤などに再資源化されるという画期的な処理を行った。
3. 未来を担う子どもたちのためへの取組
現在福岡県では、今回の大会を機にトップアスリートのプレーを間近で観戦することや、選手との交流により子どもたちのスポーツへの関心を高め、競技力の向上を図るといった施策を実施している。県内の25校、約1,600人の小学生が大会観戦に訪れ、また、県内の中学校や高校に福岡県を本拠地とするバレーボールのプロチームの選手や女子日本代表のOGが出向き、体育の授業や部活動の中で出前教室を行った。
また、チケット販売に当たっては、高校生までを「子供料金」とした。これは、地元の中高生が世界トップレベルのプレーを目の当たりにできるようにと配慮した価格設定で、次世代の子どもたちへの思いが積極的に表れた好事例と言える。
これらの事業は、次の世代を含むすべての人々の健康を追求するSDGsの理念に沿った動きであり、大会組織委員会と地元自治体の福岡県、それぞれができることを工夫したからこそ実現した試みと言うことができる。次の世代の子どもたちが、継続的にスポーツを楽しめるようにしていくためにも、SDGsのパートナーシップで目標を達成していくことの重要性を改めて感じたところである。
このように、VNLというバレーボールの世界大会を機にして、選手を含めた関係者がそれぞれのリソースを持ち寄り、多様な取り組みを進めようとしていることは、今回実現した新たなスタイルということができる。
4. 「街と選手とファンの一体化」を目指して
今大会では、日本で初めて「ファンゾーン」を導入した。試合会場と練習場をつなぐ通路をミックスゾーン(メディアが選手にインタビューできる場所)のように設置することで、チケットを持っていない人でも選手と触れ合える場が生まれ、大好評をいただいた。さらに、選手らチームのバス移動による環境負荷を減らすため、会場から徒歩2分のホテルを利用。選手たちには会場からホテルまで、自分の足で移動してもらうことにした。
それによって、全国各地から集まったファンや地元の方々が、普段テレビなどを通じてしか見ることのできない海外の選手たちを間近で見ることができ(中には身長2mを超える選手もいて実際に見た人はその迫力に圧倒されていた)、一緒に写真を撮ったり、握手をしたりできることで、地域との一体化を象徴するような画期的な取り組みになったのではないかと思う。その影響もあって、これまで開催国以外のチームによる試合は、国内外の大会問わず、空席が目立つことが多かったが、今回の福岡大会では、日本以外の海外チーム同士の対戦も満員となり、外国人選手もその熱狂ぶりに驚いていたほどだ。
他のスポーツイベントに影響を与える大会に
FIVB/VW、株式会社CBと福岡県のパートナーシップ形成によって、本大会は国連の掲げている大規模国際スポーツ大会とSDGsの強力な結びつきを実現することができた。また、今回の取組みは、SDGsの目標の17番「パートナーシップで目標を達成する」という考えに沿って、企業、自治体、地域、学校、家庭、そして大会に参加する一人ひとりがSDGsの担い手になり、「スポーツ×SDGs」の継続的な理解と意識の向上に繋った。
また、今回のVNL2024福岡大会はパリ五輪出場権がかかった戦いということで、メディアの注目度も非常に高いものになった。取材に対しては、小倉駅周辺のシティドレッシングや試合の内容に加え、SDGsや「街と選手とファンの一体化」ということを中心に訴求した結果、福岡県の地元メディアはもちろん、全国のメディアでの報道量も増え、結果として、広告費換算で約302.5億円のパブリシティ効果(ニホンモニター調べ)を獲得。そして、観客数はVNL日本大会としては過去最高の84,520人を記録し、福岡県と北九州市での経済波及効果は36 億800万円(北九州市発表、北九州市立大学調べ)に達し、すべてにおいて大成功を収めることができた。
今回、国際競技連盟と地方自治体がパートナーシップを組んで大会を開催したことは革新的なことであり、そこから生まれた数々の挑戦がSDGsを実現し、さらには、開催地の皆様が世界の一流選手と触れ合うことで、地元のバレーボールファン、ひいては日本のバレーボール人口を増やし、さらには地域の活性化も促進することができると考える。今後このコラボレーションは国際スポーツ大会の模範となるだろう。そして、国際スポーツ大会に関わるすべての人が、SDGsや子どもたちの未来を真剣に考え、行動していくようになることが、スポーツ大会のあるべき姿であり、私たちが未来へ継承すべき、真のレガシーと言えるのではないだろうか。
◇青山 アリア(あおやま ありあ)
FIVB/Volleyball World Strategic Partner 株式会社CB 最高執行責任者
イスラエルの国際コンサルティングファームを経て、官公庁の国際広報アドバイザーとして従事。2017年株式会社CBの役員に就任。文化外交のエキスパートとして日本の魅力を発信し続け、日本と世界各国の文化人、外交官、スポーツ連盟などとの架け橋として活動することで、平和で安定した国際社会の実現を目指している。VNL2024福岡大会組織委員会副会長、X Games Japan組織委員会理事、日本パラクライミング協会理事、日本国際広報戦略機構代表理事も務めている。
※所属・肩書等は2024年10月の執筆当時のものです