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海外展開に向けた事業展開方法について~応用編~(スポーツシンクタンク戸井田朋之)

2022.12.19

海外展開を図る際に最も重要なポイントは、自社製品の「強み」を把握し、それを世界市場に打って出るということです。どのようなポイントで「差別化」を図るかが、世界市場で受け入れられる重要ポイントとなります。その上で、自社製品を受け入れてくれそうなマーケットを選別、もしくは暗中模索でもリスクの少ない手法でアプローチすることが望ましいと思います。

海外戦略では、「十分な事前調査」と「成功へのロードマップ作り」の事前準備が必要です。さらには、主要都市の人気セレクトショップやスポーツショップを何度も定点観測し、お客様の心をどのように射止めているのを事前調査しておくことも大切です。

海外出店のポイント~直営店の狙い目となる物件とは~

世界一人気のパリのセレクトショップ「Merci」。著者撮影

もし直営店を出店しようと考えておられている企業に「耳寄りな情報」、それは、間口が狭くて奥行きのある細長い間取りの物件で、賃貸料がとにかく安価です。

日本では京都の町屋や大阪に多くみられる物件で、一見使い勝手が悪そうな形に見えますが、意外にもお客様を受け入れやすくコストパフォーマンスが好いと密かに人気があります。このような細長い物件が増えた理由は、日本では、江戸時代に間口の広さで税金の金額が決められたから、なるべく多くの物件を建てたかったからと言われています。

実は、ロンドンやパリでも同じような条件設定が今でも存在しているという事実があります。具体的に言いますと、軒先となる間口が仮に8mとしますと、屋内にはいった8mが家賃100%と計算され、その奥の8mは家賃50%、またその奥の8mは25%という条件設定になります。

つまり正方形の物件を借りるのと、長方形の物件を借りるのとどちらがお得感があるかというと完全に後者となります。従って、奥にオフィスや小さな倉庫などを考慮しますと使い勝手はとても好い物件となります。

パリの世界的有名なMerciやロンドンのBarbourなどは、路面店とは言え、軒先は極端に狭く、入り口を入っていくと玉手箱のように見る商品がたくさん奥に置いてあるレイアウトとなっています。

Merciは店内にカフェも。著者撮影

逆に、世界的に有名なラグジュアリーブランドは、その資本力とPRを兼ねて軒先は広く、奥に狭い物件を選びがちで、それぞれ企業やブランドの思惑によって物件が使い分けられています。

細長い間取りの賃貸物件のメリットデメリットとは?

細長い間取りである物件は一見使い勝手が良くないイメージですが、この間取りだからこそのメリットもあります。それは部屋全体が広く見えることです。奥行きがあり視線が伸ばせる間取りなので、間口が狭くても十分な広さがあるように感じられます。また玄関から部屋の奥に向けて商品テーマごとに進めていけることも、このような物件のメリットです。

しかし、間口が狭く細長い間取りだからこそのデメリットもあります。それは風通しや日当たりが悪い物件が多いことです。風通しの悪い部屋はカビが発生しやすいので、そのような物件を選ぶなら常に換気扇を回す、扇風機を窓の外に向けて室内の空気を循環させるなどの対策が必要でしょう。

間口が狭いため大きな家具を入れることが難しい、部屋に入れたら思ったより大きかったなどのトラブルもあるので、家具や陳列台のサイズは事前に測っておくことをおすすめします。細長い間取りである物件は、京都の町屋のような雰囲気のある賃貸物件に店舗を構えたい方には特におすすめの物件です。

世界主要都市のオフィス賃貸料ランキング【2019年版】

一般的に日本(東京)のオフィス賃借料は高額というイメージがありますが、海外主要都市の賃料コストは、どうなっているのでしょうか。また、世界では国ごとにオフィス賃貸借における賃料表示が異なっていますが、海外進出を画策している国および都市の賃料表示はご存じでしょうか。

ここで、2019年における世界主要都市のオフィス賃貸料ランキングをご紹介します。是非、各国の賃貸物件の「相場観」だけでも確認しておいて頂きたいと思います。

■「世界のプライムオフィス賃貸コスト」前年同期比

著者作成。参考文献=米CRBE誌、不動産情報誌Dijima

まずは、世界全体と3つの地域における「プライムオフィス賃貸コスト」の〝前年の同期間との比較〟から見ていきましょう。結論から言うと、「2019年Q1」の世界全体および各地域のプライムオフィス賃貸コストの変動は、そのすべての地域において年間上昇率がアップしていました。

まず「世界全体(Global)」では、前年同期比3.6%の上昇。昨年の2.4%と比較すると1.2%アップしています。続く「南北アメリカ(Americas)」だと、前年同期比3.7%の上昇。昨年の3.2%と比較すると0.5%のアップ。さらに「アジア太平洋地域(APAC)」では、前年同期比3.3%の上昇。昨年の1.8%と比較すると1.5%のアップ。

最後の「欧州・中東・アフリカ(EMEA)」は、前年同期比3.5%の上昇。昨年の2.0%と比較すると1.5%のアップとなっています。結果的には、昨年よりもっとも賃貸コストの上昇率が高かった地域は、「アジア太平洋地域(APAC)」で、1.5%のアップとなっています。

「世界のオフィス賃貸コスト/ TOP50ランキング」をご紹介する前に「海外のオフィス賃貸借における表示」について説明します。世界の各都市においては、仮に欧米文化圏内でも、国ごとにその標準的な表示方法は異なっています。

今回のランキングデータのデフォルト表示にもなっているのが、イギリス系に多く見られるヤード法による「sq.ft.(スクエアフィート)」で、1フィート平方(約0.093平方メートル)の面積を示します。世界の都市で【sq.ft.】を用いているのは、ニューヨーク、ロサンゼルス、ロンドン、香港、シンガポールなどの各都市になります。

もうひとつの代表的な単位は、メートル法の「sq.m.(平方メートル)」の表示。この【sq.m.】を用いてる都市は、パリ、シドニー、バンコク、上海などになります。そして日本でのオフィス賃貸借における賃料表示は、尺貫法による「坪/月」を標準的な表示単位としています。ちなみにアジアの主要都市ではソウルや台北などが同様の表示方法を用いています。

※スクエアーフィート(sqf)を日本の平米数(㎡)に換算する計算式は、スクエアフィート(sqf)×0.093=平米数(㎡)

■「世界のオフィス賃貸コスト/ TOP50ランキング」

著者作成。1平方フィート当たり年間コスト:共益費・税込み

「海外のオフィス賃貸借における表示方法」が理解できたところで、いよいよプライムオフィス賃貸コストの「世界ランキング | トップ50」を見ていきましょう。1位は、昨年と同じく「香港(セントラル)」で、年間総賃貸コスト(※ 1平方当たり年間コスト:共益費および税込み)は1平方フィート当たり322米ドルとなりました。

2位は「ロンドン(ウエストエンド)」の222.7米ドル。3位は「香港(九龍)」で208.67米ドル。4位は「ニューヨーク(ミッドタウン・マンハッタン)」の196.89米ドル。5位が「北京(金融街)」で187.77米ドルとなっています。さらに6位は「北京(CBD)」で177.05米ドル。7位は「ニューヨーク(ミッドタウン・サウスマンハッタン)で169.89米ドル。

そして8位が「東京(丸の内・大手町)」で167.82米ドル(※)。9位が「ニューデリー(コンノートプレース CBD)」で143.97米ドル。10位が「ロンドン(シティ)」の139.75米ドルとなっています。世界ランキングのトップ10のうち6都市がアジアの都市という結果になりました。

※2018年Q1においても「東京(丸の内・大手町)」は同様の8位で171.49米ドルという結果でした

ここからはアジアを含む、「南北アメリカ(Americas)」「アジア太平洋地域(APAC)」「欧州・中東・アフリカ(EMEA)」の3つの地域の各エリアランキングを見ていきましょう。

■「南北アメリカ(Americas)賃貸コストTOP10

著者作成。1平方フィート当たり年間コスト:共益費・税込み

■アジア太平洋地域(APAC)賃貸コストTOP10

著者作成。1平方フィート当たり年間コスト:共益費・税込み

■欧州・中東・アフリカ(EMEA)賃貸コストTOP10

著者作成。1平方フィート当たり年間コスト:共益費・税込み

世界のスポーツショップの原点

世界的に有名なスポーツ産業の見本市、ISPO展が開催されているドイツ・ミュンヘン市はベルリン、ハンブルグに次いでドイツでは3番目に大きな都市で、人口は140万人。日本で言いますと、京都市や川崎市と同じくらいの人口です。1972年にはミュンヘンオリンピックが開催されました。

そもそも、Münchn(ミュンヒン)という名は「僧院」という意味で、ドイツ語で僧を表す「メンヒ」に由来しています。ドイツの主要都市の中でも、アルプス山脈の北側に位置し、最も雪が降りやすい主要都市となっています。IOC国際オリンピック委員会内では、夏冬両大会を開催できる条件として、海岸と降雪地域である山脈が近いという設定がありました。

夏の大会では海や川を試用する競技も多く、また冬は雪や氷が必須条件だからです。この両方の条件を満たす開催都市としては、カナダ・バンクーバー、日本の札幌市、そしてドイツ・ミュンヘンが最適地としてノミネートされていたほどです。そんなミュンヘンにある大型スポーツ店をご紹介します。

■スポーツシェック(SportScheck)

著者撮影

■スポーツシュスター(Sport Schuster)

著者撮影

■グローブトロッター(Globe Trotter)

著者撮影

出店を検討するにあたっては、「出店地の人気店舗に足を運び、地元の顧客のニーズをいかに把握しているかをリサーチする」ということを是非実践してみていただければと思います。

海外展開に必要な準備

海外展開を図る前に、大きく3つの準備が必要です。

  • 自社製品の「強み」を把握する
  • ターゲットにするマーケットを決め、文化やライフスタイルを充分にリサーチする
  • 人気店舗に足を運び、地元の顧客のニーズをいかに把握しているかをリサーチする

また、海外展開を図る場合、そのアプローチ手法としては大きく3つの方網に集約されます。

  1. 国際展示会に出展して、バイヤーから受注を受ける手法
  2. ターゲットとなるマーケットの販売代理店を探し求め、その販売代理店とともに受注活動を行う手法。
  3. 自らが直営店を出店し、そこを基点にブランド知名度を上げていく手法。

上記の①②は「B to B」、③は「B to C」に区分できます。スピード感からしますと前者が優位に進められます。3つのアプローチを同時に、もしくは時間差攻撃で進めていく手法がもっとも肝要かと考えます。

注:コラム内の写真は全て執筆者本人が特別に許可を得て撮影を行っております

◇戸井田 朋之(といだ・ともゆき) 

株式会社スポーツシンクタンク 代表取締役社長 CEO

1953年生まれ。元順天堂大学スポーツ健康科学部客員教授。文化服装学院・文化ファッション大学院大学客員講師。2024年パリオリンピック夏季大会国際アドバイザー。パリ在住。

慶應義塾大学卒業後、株式会社デサントに入社。入社3年目でフランスのパリに駐在し、ヨーロッパの主たるリゾートスキー場のスキースクールユニフォームの受注活動を行い、現在の欧州販売網の基礎を作った。1980年からIOC(国際オリンピック委員会)会長となった故サマランチ氏に息子のように可愛がられ、1984年サラエボ・オリンピック開会宣言の場でのデサントウェア着用シーンが世界中に報道され、一気に同社を国際ブランドとデビューさせた牽引者。

今まで計21回、オリンピックの現場で世界のトップアスリートやIOC(国際オリンピック委員会)を支え、並行して英仏語に留まらず多国語マスターの能力を活かしてデサントブランドの国際戦略を先陣。帰国後は、企画部長やSP販促部長を歴任し、取締役就任後は新たに地方自治体との官民コラボレーションにも成功。過疎地指定されている群馬県みなかみ町を復活させ経済産業省から表彰される。

また一方ではDA PUMP、モーニング娘。、加藤あい、優香など新人タレント発掘の傍ら、スポーツ業界のCMに初めて芸能人を起用するなど、業界きっての積極的な「仕掛け屋」。そして再度のヨーロッパへ赴任。パリ、ローザンヌ、ロンドンで駐在後、2017年7月起業独立し、現在は国内外の大学で教鞭をとる傍ら、海外企業・国内企業複数社とコンサルティング契約を結び活動中。JALの機内食「うどんde SKY」の名付け親。

スポーツ産業の国際戦略には、情報力・販売力・物流力・交渉力そして継続的マーケティング力が必要と説き、グローバルな視点に立つモノの見方は、シャープで素晴らしいと評価されている。


※所属・肩書等は2022年12月の執筆当時のものです

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