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スポーツ産業成長「7つのキーワード」#1:「勢力地図」と「トレンド震源地」(スポーツシンクタンク戸井田朋之)

2022.07.20

1920年に世界を震撼させたスペイン風邪から100年。2020年から2021年はコロナによって世界が劇的に変化しました。この未曽有のパンデミックから少しずつでも脱却し、元には戻らないものの与えられた環境下で光を求めて進めて行くしかありません。

1年延期となった東京オリンピック・パラリンピックも感染対策を万全に行い、無観客での開催が無事に行われました。スポーツ業界もコロナの影響を大きく受けている業種のひとつですが、比較的キズがまだ浅いのがキャンプを含む「アウトドア」と屋外で楽しむ「ゴルフ」です。「密」を避けた比較的安心感のあるスポーツから参加者が戻ってきています。

コロナワクチンが普及し、コロナ経口薬も開発されているとはいえ、地球レベルで安心・安全な状況になるのは程遠いと思われます。そんな中、一度はリセットしさらに前進するうえで大切になる「スポーツ産業成長への7つのキーワード」を挙げます。スポーツ産業全体の成長を促すため、ご参考にしていただきたいと思います。

それでは、順を追ってご説明させていただきます。

①全体環境とライバル企業を把握する為の、スポーツ業界「勢力地図」

上記は2021年3月期の決算数値です。コロナ禍で大半の企業が前年割れしていますが、NIKE、adidasの2強は変わらずも、NIKEのみが売上増・利益増の結果となっています。これは、カジュアルユースに着用されるシーンが増えたことと、何よりも陸上界を中心に好成績を出しているシューズ開発が奏功しています。

元気のある企業の成功要因を分析することによって、自らの企業を棚卸しし「強み」を訴求していくことが大切です。全体環境を把握し、ライバル企業を含めた周囲の企業分析を行うことによって、自社の立ち位置が理解できてきます。

やはりスポーツ企業の成長には「開発力」が重視され、さらにはインフルエンサーへの着用頻度を上げることによって、シャワー効果が見込まれる戦略が重要となってきます。ここに掲げます「スポーツ業界」だけでなく、アパレル業界、百貨店業界、繊維業界など関連産業の勢力地図も準備し、自社の立ち位置を診断するカルテが必要です。

その上で作成する「SWOT分析」こそ今後の成長に必要となってまいります。広範囲に力を分散化されるのではなく、「強み(S)」「弱み(W)」「機会(O)」「脅威(T)」のうち、「強み (S)」のアピールと「選択と集中」こそ、他の企業とは一線を画した独自性の強調につながります。

②定点観測として、常にチェックしておきたい「トレンド震源地」

世の中のファッションやトレンドを「川」に例えますと、アパレル業界やスポーツ業界ではトレンド発信力の強い地域や国、街を「川上」と表現しています。川上から流れる水のごとく、下流である川下にあたる他の国々、地域に影響力を与えるという意味合いです。その「川上」は、メンズファッション・レディスファッション・スポーツファッションとそれぞれ違います。

スポーツアパレル分野に特化しますと、この影響力の流れは顕著です。アメリカ西海岸発のサーフィンを中心とする横乗り系スポーツや、ロッキー山脈を源泉とするアウトドアスポーツでさえ、「米→欧→日」というのが特徴的です。

以前は、「オートクチュール」→「プレタポルテ」→「カジュアルファッション」→「スポーツ」というトレンドの流れでした。オートクチュールで提案されたカラーであったり、レイヤード重ね着スタイルの提案が、3~4年後にスポーツにやってくるという時間差が生じていました。

しかしながら、今は違います。SNSの発達で世界中の人が最先端のファッションをいつでも見ることができる時代になりました。トレンドは同時進行に近く、それだけ敏感でなくてはスポーツ製品でさえ売れない時代になっているのです。

メンズファッションは、英国ロンドンが震源地です。レディスファッションは仏パリでも伊ミラノでもなく、スペインのバルセロナ、そしてスポーツは独ミュンヘンだと今までの経験から思っています。

例えば、007ジェームスボンドの映画ファッションさえ見ておけば、翌年のメンズ店頭には、映画の中で見つけられた着こなしやカラーコディネート、さらには傘やキャップスタイルまで影響力を受けたアイテムが目白押しです。レディスにおいては、ZARA、H&M、UNIQLOなどのクリエーティブオフィスのあるスペイン・バルセロナが最も敏感で、しかもファストファッションの源流を造っています。

地中海の東に位置する「トルコ」の存在も大きく、サンプル作成や機能マテリアルで大きな手助けをしています。

そして、スポーツは?と言いますと、今も昔も独ミュンヘンです。夏冬関係なくスポーツを楽しむ市民は多く、日本や米国のスポーツ大型量販店の「礎」となった大型スポーツ店の「スポーツシェック」や「スポーツシュスター」があり、そしてアウトドア専門店の「グローブトロッター」の存在は世界中に影響力を持ち、燦然と輝いています。

世界最大のスポーツ展である「ISPO」展が毎年開催されていることも、ひとつの理由です。1970年から半世紀にわたり、世界一の規模を誇る「ISPO展」。世界中から約3,000に及ぶ企業が出展し、4日間の開催中に延べ85,000人のバイヤーが来場します。スポーツ店や百貨店バイヤーのみならず、TVクルーやスポーツ誌のジャーナリスト、そして有名アスリートも足を運ぶ「スポーツの一大祭典」です。

ミュンヘンが「震源地」であることは、サッカーのバイエルン・ミュンヘンの存在や市内から30分圏内に多くのスキー場やアウトドアキャンプ場が隣接しているという立地条件からもうなずけます。

日本で大型スポーツ1号店としてスタートした「西武スポーツ館」もまた影響を大いに受けた店舗で、「銀座マリオン」もミュンヘン市庁舎前の「マリオン広場」から取られていますし、午前10時から午後10時まで毎正時鐘のなる、有楽町にある「銀座マリオン」の仕掛け時計もまた、ミュンヘンの市庁舎の鐘を参考にされたものです。

ロンドン、バルセロナ、ミュンヘンで開催される各種展示会、そしてクリエーティブオフィスから出てくるスタッフのファッション、街の店頭ディスプレイをウォッチしているだけで、翌年から世界で流行するトレンドが発見できます。

なぜなら、世界中の企業デザイナーや企画マンが同じように足を運び、VOGUE誌やWWD誌などでそのトレンドをまとめているのですから、影響力を受けるのも頷けます。ただ、大切なのはそのトレンドを外さすにいかに独自のトッピングで料理を味付けし、彩るか。それが各企業の独自性につながり、「売れる・売れない」のボーダーラインを決めることになると思うのです。

コラムの第1回では「7つのキーワード」の中で、

①全体環境とライバル企業を把握する為の、スポーツ業界「勢力地図」

②定点観測として、常にチェックしておきたい「トレンド震源地」

をお届けしました。

次回の第2回では、 

③日本の「強み」は、「サービス」「機能性」「開発力」

④5年後10年後が予測できる、パリの「Premiere Vision」展

について紹介したいと思います。

◇戸井田 朋之(といだ・ともゆき) 

株式会社スポーツシンクタンク 代表取締役社長 CEO

1953年生まれ。元順天堂大学スポーツ健康科学部客員教授。文化服装学院・文化ファッション大学院大学客員講師。2024年パリオリンピック夏季大会国際アドバイザー。パリ在住。

慶應義塾大学卒業後、株式会社デサントに入社。入社3年目でフランスのパリに駐在し、ヨーロッパの主たるリゾートスキー場のスキースクールユニフォームの受注活動を行い、現在の欧州販売網の基礎を作った。1980年からIOC(国際オリンピック委員会)会長となった故サマランチ氏に息子のように可愛がられ、1984年サラエボ・オリンピック開会宣言の場でのデサントウェア着用シーンが世界中に報道され、一気に同社を国際ブランドとデビューさせた牽引者。

今まで計21回、オリンピックの現場で世界のトップアスリートやIOC(国際オリンピック委員会)を支え、並行して英仏語に留まらず多国語マスターの能力を活かしてデサントブランドの国際戦略を先陣。帰国後は、企画部長やSP販促部長を歴任し、取締役就任後は新たに地方自治体との官民コラボレーションにも成功。過疎地指定されている群馬県みなかみ町を復活させ経済産業省から表彰される。

また一方ではDA PUMP、モーニング娘。、加藤あい、優香など新人タレント発掘の傍ら、スポーツ業界のCMに初めて芸能人を起用するなど、業界きっての積極的な「仕掛け屋」。そして再度のヨーロッパへ赴任。パリ、ローザンヌ、ロンドンで駐在後、2017年7月起業独立し、現在は国内外の大学で教鞭をとる傍ら、海外企業・国内企業複数社とコンサルティング契約を結び活動中。JALの機内食「うどんde SKY」の名付け親。

スポーツ産業の国際戦略には、情報力・販売力・物流力・交渉力そして継続的マーケティング力が必要と説き、グローバルな視点に立つモノの見方は、シャープで素晴らしいと評価されている。


※所属・肩書等は2021年12月の執筆当時のものです

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