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伊藤園「お~いお茶」と大谷翔平のグローバル契約が目指す、北米市場のブランド戦略(JSPIN事務局)

2025.01.09

2024年4月30日、無糖緑茶飲料ブランド「お~いお茶」は、ロサンゼルス・ドジャースに所属する大谷翔平選手とのグローバルアンバサダー契約を締結した。「世界のティーカンパニー」を目指す株式会社伊藤園が、本契約を通じて何を目指しているのか? 同社広報部 副部長の古川正昭氏、ならびに国際本部 国際事業推進部 企画推進課長の佐藤元亮氏に話を聞いた。

「伸びしろはあるが認知度が低い」北米市場での緑茶の現在地

「二刀流での活躍やMVPの受賞など、野球の成績が素晴らしいというのはもちろん知っていました。でも契約を結ぶ上で一番大事だったのは、やっぱり何よりも彼の人格です」

「お~いお茶」ブランドを展開する株式会社伊藤園 広報部 副部長の古川正昭氏はそう口にする。

「大谷選手が日本にいた頃から『お~いお茶』が大好きで、今もアメリカで飲んでいただいていると聞いています。本当にうれしい限りですね」(古川氏)

株式会社伊藤園 広報部 副部長 古川正昭氏

「お~いお茶」は、36年前の発売開始から累計販売本数が430億本を突破し、無糖緑茶飲料において6年連続で年間売上世界一を記録。国内シェアは36%で堂々のトップだ。

伊藤園は長期ビジョンである「世界のティーカンパニー」の実現を目指すため、2024年6月、「新・中期経営計画」を策定。「お~いお茶」のグローバルブランド化を加速させていく方針を示した。海外市場で「北米は最重要エリア」と語るのは、国際本部 国際事業推進部 企画推進課長の佐藤元亮氏だ。

日本における緑茶の輸出額は2023年、過去最高の292億円に上り、北米エリアはその5割を超える。

背景にあるのは「健康志向」の高まりだ。もともとアメリカでは、緑茶などの茶製品を含めて砂糖が入った飲料が好まれていたが、成人の肥満率が4割を超えることから食生活の改善が叫ばれ、近年は無糖飲料を求める人が増えている。

また緑茶自体の健康機能にも注目が集まっている。緑茶に含まれるカテキンには体脂肪の低減効果やLDLコレステロール値の低下作用、テアニンには睡眠の質の向上に有益であるという研究結果があり、実際シリコンバレーの先端企業ではワークコンディショニング飲料として緑茶が提供されているのだ。佐藤氏は「健康志向の高まりが鈍化することは考えにくく、今後さらに伸びていくのではないか」とみている。

株式会社伊藤園 国際本部 国際事業推進部 企画推進課長 佐藤元亮氏

とはいえ、北米エリアにおける緑茶の市場規模はまだまだ小さい。「都市部を中心に少しずつ広まってきているが、実際飲んだことのある人はまだまだ少ないのが実情」(佐藤氏)だ。

伸びしろはあるが、認知度が低い。それが北米エリアにおける緑茶、「お~いお茶」の現在地だ。

大谷翔平選手とのグローバル契約、2つの狙い

昨年4月30日、伊藤園は大谷翔平選手と「お~いお茶グローバルアンバサダー」契約締結を発表した。これまでにさまざまなプロモーションを展開している。

発表当日には国内外の新聞で全面広告を掲載。日本では全国紙をはじめスポーツ紙、全国の地方紙にも出稿。海外ではアメリカ、韓国、オーストラリアで掲載し、英語だけでなく韓国語版も制作した。新聞広告は紙面を手元に残すことができることから、「お~いお茶」が大谷選手のそばにあるように、広告そのものを身近に置いてほしいという願いも込めたという。

続く5~6月には同じく国内外で屋外広告を実施。国内 では12 都道府県の 82 カ所、海外ではニューヨーク、ロサンゼルス、韓国、台湾の計 6 カ所で掲出した。より多くの人々に広告を届けることを目的にしながら、特に海外は野球が盛んな国を選定した。

また、社会貢献プロジェクト「Green Tea for Good」を大谷選手と共に立ち上げ、その一環として大谷選手のバストアップ画像がパッケージに描かれた通称「大谷翔平ボトル」を7月から期間限定で販売(海外は順次)し、9月には大谷選手が和装したシーズンビジュアルも大きな話題となった。

大谷翔平選手を起用したビジュアルは海外の新聞広告でも掲出した

大谷選手との契約の狙いについて、古川氏は「緑茶で最も大きな市場である日本国内で圧倒的なポジションを目指す」ことを第一に挙げる。実際、上述のプロモーション施策を通じて消費者と「お~いお茶」の接点を増やし、大谷翔平選手パッケージ販売期間の国内の販売本数は前年比13.8%増と順調な伸びを示している。

古川氏が次に挙げたのが、「海外で『お~いお茶』を発信して認知度を高めていく」ことだ。言わずもがな、大谷選手はアメリカでも高い知名度と人気を誇る。6月にタイムズスクエア(ニューヨーク)やハリウッドで巨大LED広告を掲出したときは、現地で写真撮影の人だかりができてSNSでも次々に拡散されるなど「大きな反響があった」(佐藤氏)という。

また同じく大谷選手の知名度や人気が高い台湾では、アメリカに先んじて「大谷翔平ボトル」が販売された。その効果として、発売前後で様々なメディアやSNSでの取り上げや、「あるCVSチェーン様では大谷翔平ボトル販売初日から盛大な店頭企画をつくっていただいたり、これまで取引のなかった販売店からの問い合わせが増えるという二次的な効果もあった」(佐藤氏)。

アメリカでの販売は2月に予定されており、台湾の事例を踏まえればその効果に期待が持てるだろう。

海外市場向けの「大谷翔平ボトル」

知名度や人気よりも重視した「ブランドとの親和性」

だが重要なことは、伊藤園は決して知名度や人気だけを期待して大谷選手とグローバル契約を結んだわけではない。むしろより重視しているのが、ブランドとの親和性だ。

大谷選手と「お~いお茶」には、さまざまな面において共通項がある。

例えば“世界一”だ。「お~いお茶」が6年連続で年間売上世界一であるのに対し、大谷選手は昨年シーズン2年連続3度目の“満票MVP”に輝いており、名実ともに世界一の野球選手に選出されている。

また大谷選手は同時に、勤勉さ、謙虚さを持ち、礼儀正しくて、ゴミが落ちていれば当たり前のように拾うといった“日本的美徳”を体現している。一方で、「お~いお茶」は緑茶という日本文化を象徴する飲み物。歌舞伎、相撲、将棋、囲碁も支援するなど日本の伝統文化を大切にしており、“日本らしさ”という面において相通じるものがある。

さらに、「お~いお茶」は、発売を始めた20年以上前から、当時北米では加糖の茶飲料が主流だった時代にも無糖を貫いた。「日本文化の一つである『緑茶』本来のおいしさを味わってもらいたい」(佐藤氏)という“本質”を大切にする姿勢に他ならない。大谷選手も同様のことがいえるだろう。誰より真摯に野球に取り組み、誰より野球を楽しむことで、野球という競技が本来持っている魅力を最大限に体現している。

大谷選手のアンバサダーとしての名刺風「プロモーションカード」を、7月には数量限定で配布した。
これも日本らしいと言えるかもしれない

こうした親和性は「当然意識している」と古川氏は言う。日本国内であれば多くの消費者が「お~いお茶」を認知しているが、海外では緑茶自体が知られていない。「お~いお茶」のブランドイメージを伝えていく上で、大谷選手との親和性は非常に大きな意味を持つ。

「大谷選手の誠実さ、精神性、人間性は本当に素晴らしいですし、日本人として誇らしい。我々のお茶に対する思いであるとか、取り組みというのは、大谷選手も理解してくださっているので、これからも一緒になって『お~いお茶』のブランド力を上げていきたいですね」(古川氏)

「世界のティーカンパニー」に向けて加速する伊藤園。その世界戦略から目が離せない。

◇JSPIN事務局

JSPIN事務局のメンバーが、日本のスポーツ産業のさらなる国際展開を支援する活動等をご紹介します。


※所属・肩書等は2024年12月の執筆当時のものです

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