
2024年に活動を始めた佐賀アジアドリームズ(2025年1月に佐賀インドネシアドリームズから球団名を変更)は、九州アジアリーグに所属するプロ野球独立リーグのチームである。佐賀アジアドリームズの最大の特徴は、アジア各国出身の選手を中心に構成されている点であり、日本国内の野球だけでなく、スポーツ界の中でも極めてユニークな存在である。佐賀アジアドリームズが目指すのは、単なるリーグ参加ではなく、国際的な選手育成やアジア各国の野球振興と経済交流の橋渡しとなることである。
アジア各国の野球選手のプロへの道を切り開く
多くの所属選手の出身国である西アジアや東アジア、東南アジアの国々では野球が広く普及しているとは言い難い。そのため、野球において十分な指導を受ける機会に恵まれないことが多く、日本やアメリカのプロスカウトに目を留めてもらうことも難しいという現実があった。これらの事情により、中国や韓国、台湾などを例外として、アジア各国からNPB(日本野球機構)やMLB(米大リーグ機構)といった日本やアメリカのプロ野球リーグに進出する選手は少数であり、その道は非常に狭いものであった。
佐賀アジアドリームズはこうした課題に正面から取り組み、アジア各国の若い才能に新たな機会を提供している。彼らが日本の独立リーグを経てNPBやMLBを目指す道筋が明確になるこの取組は、日本のプロ野球界に新たな才能の発掘機会を創出し、競争力の強化にも繋がることを志している。実際に、チームにはフィリピンやインドネシア、スリランカ、パキスタンなどの国から選手が集い、日本でのプロキャリアに挑戦している。

代表チーム強化とアジア各国での野球振興
佐賀アジアドリームズの存在は、アジア各国の野球代表チームの強化にも寄与している。選手たちは日本で高度な指導を受け試合経験を積むことで、母国の代表チームのレベルアップに貢献しているからだ。チーム発足初年度から、選手たちの佐賀アジアドリームズでのレベルアップが評価され、各国の野球連盟は2025シーズンに向けてより積極的に自国の有望選手を佐賀アジアドリームズに送り込もうとしている。
また、各国野球連盟を通じた地元メディアとの連携も進められており、日本でプロ野球選手として活躍する母国出身選手の姿が報道されることで、現地での野球への関心が高まることが期待される。すでにフィリピンやインドネシア、カンボジアなどの国営テレビで佐賀アジアドリームズが取り上げられるなど、アジア各国で佐賀アジアドリームズの活動が注目を集めている。今後さらに影響力が拡大することによって、アジア各国における野球振興の基盤が強化されることが期待される。
このようにして、佐賀アジアドリームズはアジア各国の野球界に新しい未来をもたらす重要な役割を果たしている。

日本で暮らすアジア人コミュニティや地域との架け橋
佐賀アジアドリームズのもう一つの目指す姿は、日本に住む多くのアジア各国の出身者たちにとっての「交流のシンボル」となることである。野球は日本で最も盛んなスポーツの一つであり、その国のプロ選手として活躍する母国出身選手がいることは、アジア出身者たちにとって誇りと励みになり得る。また、佐賀県においても、佐賀アジアドリームズは県内に拠点を置く唯一のプロ野球チームであるとともに、アジア出身選手を中心に構成されるという特色から、地域の国際交流拠点の一翼を担うことが期待される。実際に県内では国際交流イベントへの参加をはじめとする国際交流団体との連携も進んでいる。
従って、佐賀アジアドリームズの選手たちの活躍は、日本に住むアジア出身者のコミュニティ同士の交流を深め、相互理解の促進に繋がるとともに、野球という共通のテーマを通じた日本とアジアの人々との文化交流を生み、連携の強化にも繋がる。このように、佐賀アジアドリームズにおける多様な国出身の選手たちで構成するというチーム作りの理念は、日本とアジア各国との文化的・社会的架け橋を築く役割も担える存在へと進化している。

野球を通じた経済交流の促進
また、佐賀アジアドリームズは、スポーツを通じた日本と東南アジアの経済交流にも寄与することを目標の一つとしている。特に、アスリートの育成に関わるスポーツ産業や健康産業、地元佐賀のお茶をはじめとする日本の各地域の特産品など、幅広い領域の産業についてアジア市場への展開におけるハブの役割を担おうとしている。具体的には、野球用具メーカーやサプリメント・飲料メーカー、スポーツ科学関連企業、あるいは日本の特産物や水産関係、船舶、医療などの領域でアジア市場に進出するための協議が始まっている。選手を輩出する各国の野球連盟を通じて各国政府機関への働きかけを行うことで、これらの領域に関わる日本の企業や生産者の進出を後押しすることを目指している。すでにアジア市場への進出・拡大を目的に一部の企業が佐賀アジアドリームズとの連携に関心を寄せており、今後、経済交流のさらなる拡大が期待される。

未来への展望
このような佐賀アジアドリームズの取組は、独立リーグの1チームにとどまらずアジア各国の野球界を発展させ、日本との国際交流の推進のための重要な役割を担っている。そして、将来的な目標としてNPBやMLBに挑戦できる選手の輩出を掲げつつ、足元では各国代表チームの強化にも繋がる選手の育成を進める野球における進展とともに、在日アジア人との交流促進や東南アジアを中心とする国際的なビジネスマッチングの拡大など、文化面・経済面などの多方面での国際交流の推進役としても発展が見込まれる。
この取組は、多様性の時代にふさわしい国際的なスポーツプロジェクトであり、日本とアジア双方にとって意義深いものである。独立リーグ参入2シーズン目でより多くのアジアの国々から選手が集まり、佐賀インドネシアドリームズから改称し悲願の公式戦初勝利を挙げるなど着実に進歩を続けている佐賀アジアドリームズ。その更なる発展は、日本における国際的なスポーツビジネス拡大の可能性のきっかけにもなるであろう。

◇河合 洋一(かわい よういち)
株式会社2019プラス代表取締役
大手広告代理店、(公財)ラグビーワールドカップ2019組織委員会などを経て、スポーツ協賛や国際大会の運営などに携わってきた経験を有する。現在は一般社団法人ジャパンラグビーリーグワン社会貢献・人材成長事業担当プロデューサーを務める。JSPINアドバイザー。
※所属・肩書等は2025年3月の執筆当時のものです。