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パナソニックスポーツ:日本のバレーボールの東南アジア展開の第一歩「Panasonic ENERGY CUP」

2024.03.04

パナソニックスポーツ株式会社(以下、パナソニックスポーツ)は、2022年に設立された会社であり、スポーツビジネスを主な事業としている。スポーツビジネスの可能性を切り開くことを目指す同社は、「S-V.LEAGUE(世界最高峰を目指す日本バレーボールの新リーグ)」の設立を受けて、バレーボールリーグ・チームの事業化を推し進めていくには東南アジアへの展開が重要だと考えた。

日本のバレーボールリーグの海外展開の足掛かりとすべく、パナソニックスポーツの男子バレーボールチーム「パナソニック パンサーズ(以下、パンサーズ)」は他の日本国内2チームとともに、タイでの親善試合とファンミーティングを開催した。確かな手ごたえがあったという「Panasonic ENERGY CUP」の実績や課題点を踏まえて、東南アジアに向けた施策をさらに強化していく。

展開コンテンツイベント事業
展開先タイ

「S-V.LEAGUE」新設をきっかけに再認識したVリーグの強み

日本のバレーボール界でいま最もホットなトピックといえば、2024-25シーズンから開始する新リーグ「S-V.LEAGUE」である。現行のリーグの上に設立される「S-V.LEAGUE」は、世界最高峰のリーグを目指している。魅力のあるリーグとするため、各チームの競技力・経営力の向上を促す設計となっている。「S-V.LEAGUE」新設により、今まで企業チームで成り立っていた日本バレーボール界の様子が一変することが想定される。

パナソニックスポーツのCEOである久保田氏は、「Bリーグ(バスケットボール)と同じことをしていては、Vリーグの飛躍的な発展は難しい」と考えた。Vリーグの強みを再考したとき、大きな特徴として東南アジアでのバレーボール人気の高さが目についた。

久保田氏は、2023年夏にフィリピンで開催された国際大会「バレーボールネーションズリーグ2023」での熱狂を目の当たりにしていた。異国の地であるフィリピンで、1万数千人を収容するアリーナの大多数が日本代表を応援していたのだ。日本の代々木体育館の何倍もの盛り上がりに衝撃を受けたという。

日本のバレーボールの東南アジアでの人気を確信していたのは、もう1つ理由がある。それは、パンサーズのSNSのフォロワーだ。パンサーズのInstagramのフォロワーは、2024年1月時点で7.6万人であるが、そのうち1万人以上が東南アジアのユーザーだった。特別、東南アジア向けのマーケティングを行ったわけでもないにもかかわらず、自然に増えた東南アジアのフォロワー数の多さは、東南アジアでの日本のバレーボール人気の高さを強く感じさせた。

だが、これだけ東南アジアでの日本バレーボールの可能性を感じさせるものがありながら、いまだ人気の高さを可視化した実績はなかった。久保田氏は「実績が作れれば、東南アジア展開が進んでいくはずだ」と考え、東南アジアでのイベント開催の実現に挑戦した。リーグとしては、資源が限られている中で、実績がない東南アジアでの興行には踏み切りにくいだろうと懸念した久保田氏は、自分達でリスクをとって実績を作ることにした。とはいえ、パナソニックスポーツだけでの興行はリスクも大きく、規模も限定的になってしまう。そこで、普段はライバルである「サントリーサンバーズ」、「ウルフドッグス名古屋」と組み、イベントを共同開催することにした。

タイ進出に踏み切った理由

東南アジアの中でもタイを選んだのには、確かな理由がある。1つは、先にも述べたSNSのフォロワー層だ。パンサーズのInstagramのフォロワーの1万人以上が東南アジアのユーザーだと述べたが、その中でも最も多いのがタイのユーザーで4千人以上を占める。このフォロワーの多さは、タイを選ぶ1つの大きな理由になった。

もう1つ大きな理由がある。それは、現地法人の存在だ。イベントを共同開催する3チームの母体企業はいずれもタイに拠点を持っていたのだ。まず、現地法人のネットワークを活用して、タイにおける日本バレーボールの海外展開の可能性を調査した。具体的には、3チームの現地法人の従業員に対し、バレーボールに対する印象を聞いたほか、バレーボール協会やタイの広告会社・放送局にも話を聞き、ビジネスとしての観点からも調査を行った。

さらに、現地法人があることで、興行で大きな赤字を出すリスクを低減できたことも大きい。初めての海外興行での最も大きなリスクは、周知が思うようにできず、十分な集客ができないことだ。その点、今回タイで興行した3チームは、母体企業の従業員の来場が期待できるため、観客が集まらない、というリスクを回避することができたのである。

従業員を招待することは、3チームの母体企業にとってもメリットがあった。日本以外のアジア諸国の企業が経済的なプレゼンスを強める中、日本企業が採用を行う際には、以前よりまして手厚いサポートや福利厚生が求められる。そんな中、一体感を醸成し、エンゲージメントを高められるスポーツ観戦を現地法人の従業員に提供できることは、母体企業にとっても嬉しい施策だった。

大会開催で感じた確かな手ごたえと課題

2023年9月、この取組は「JAPAN VOLLEYBALL ASIA TOUR IN THAILAND2023『Panasonic ENERGY CUP』」として実現した。パンサーズ、サントリーサンバーズ、ウルフドッグス名古屋のV.LEAGUEトップ3チームとタイ王国バレーボール協会が協力し、9月30日(土)、10月1日(日)にタイ・バンコクにて親善試合を行った。

さらに、大会に先んじて、7月22日(土)に、バンコクで記者会見 兼 ファンミーティングを行った。 突然試合のチケットの販売を開始しても、情報が届く層は限られる。記者会見も同じだ。そこで、メディア以外で情報を届けるべきファン、特に元々日本バレーボールに興味のあるファンに情報を伝えることを目的として、ファンミーティングを実施することにした。ファンミーティングはバンコクの試合会場の隣にある大規模商業施設のオープンスペースにて無償で行った。

ファンミーティングには、結果として数百人が、試合には2日間で6千人が来場した。日本でもこの規模の集客は難しい上、今回のイベントは、日本代表選手がチームに不在だった期間に開催されていることを考えると、大成功といえるだろう。

一方で、収益化という面では課題が残った。収入の大部分を占めるのはチケット代とスポンサーシップであったが、何十人単位での選手の渡航費や宿泊費は簡単に補えず、収支としてはマイナスとなった。今後は、収益化に向けて、スポンサーシップや航空会社とのタイアップを強化していく考えだ。今回、試合後に、スポンサー企業主催でのパーティーに選手を連れて行き、スポンサーシップの付加価値を実感してもらえたという手ごたえもあるという。

今回のチャレンジを踏まえた東南アジア展開の方向性

実際にタイでイベントを開催して、予感していた東南アジアでの日本バレーボール人気を十分に示せる結果となった。今回共同開催したサントリーサンバーズ、ウルフドッグス名古屋とは、すでに2024年も同様のイベントの開催を検討している。オリンピックが終われば、パンサーズだけでも5名程度いる日本代表選手も参加し、さらなる集客が期待できる。

タイに向けては、今回のイベントを踏まえて、メディアやSNSでの事前PR、タイ語でのコンテンツ作成、今回来場した人へのマーケティング強化を行う方針だ。今後、タイを足掛かりに、インドネシア、フィリピン等、東南アジアの他の国への展開も行っていく。また、男子だけでなく女子バレーの展開にも期待が持てる。そして、いずれは公式リーグに引き継いで海外展開を推し進めたいと考えている。将来的にはS-V.LEAGUEの男女双方の公式戦を東南アジアで開催することが1つの目標となる。

さらに、海外での日本のバレーボール人気がさらに高まれば、バレーボールと絡めたインバウンドを促進できる可能性もある。例えば、各チームがインバウンド客向けのツアーを組んだり、万博等国際的なイベントと絡めてスポーツツーリズムの枠組みでパッケージを組んだりすることも考えられる。

スポーツを主力事業とする会社の設立を契機に、自社だけでなくリーグ規模での方向性を見据えて海外展開を推し進めていくパナソニックスポーツの今後の動きにますます注目が集まる。

世界にはばたく日本のバレーボール

今回の興行で日本のバレーボールがコンテンツとして東南アジアを開拓出来るという確かな手応えを感じるものとなりました。また世界の主要なスポーツリーグを見ると、サッカーは欧州、バスケットボール、野球は米国に大きな差を開けられておりますが、バレーボールに関しては競技力、コンテンツの魅力共に日本が世界No.1になれる可能性は十分あると思われます。

パナソニックスポーツ株式会社 代表取締役 社長執行役員(CEO) 久保田 剛氏

#タイ #イベント #ファンミーティング #スポンサーシップ #東南アジアでの事業展開


※所属・肩書等は2024年1月の取材当時のものとなります

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